1人で暮らしている認知症の母の様子を見に行ったら、高額なサプリメントをいくつも購入していた──。近年、認知症の方を狙った悪質な「訪問販売」が増えています。実際、昨年5月に認知症と診断を受けている高齢者につけ込み、訪問販売でガスや電気の契約をさせたとして、新電力会社3社に特定商取引法違反で6カ月の業務停止命令が下されたと消費者庁から発表されました。
ひと昔前は布団や着物が主流でしたが、近年は浄水器や健康食品をはじめ、家屋の屋根や浴槽のリフォームなど、大掛かりな工事を必要とする訪問販売も増えています。
私がこれまでに受けた相談に、訪問販売でソーラーパネルの設置を持ちかけられ、費用を振り込んだものの工事が一向に始まらず、おかしいと思ったケアマネが気付いて詐欺が発覚した事例があります。
原則、認知症であれば本人が結んだ契約は無効ですが、その立証は困難です。ただ、「成年後見人」が付いている場合は意思能力の不存在は明らかであり、契約は無効になります。財産を守るためにも、認知症と診断されたら成年後見制度も検討してみるといいでしょう。
一定の期間内であれば無条件で契約を解除できる「クーリングオフ制度」の利用も可能です。訪問販売の場合、契約書面を受け取った日から8日以内なら認められます。
所定の期間を経過していても、契約書面を受けとっていない、または書面の記載内容に不備がある場合には、クーリングオフが認められるケースがあります。契約年月日、契約者名、購入商品名、契約金額を記入した通知書をご自身で作成し、はがきまたは電子メールやファクスで販売業者に送り、契約解除したい旨を伝えてください。その際、通知書の写真を撮っておき、通知した記録を残しておきましょう。
消費者ホットライン「188」に電話をかけるとクーリングオフの詳しい方法や、消費者トラブルに関する解決策の助言を行ってくれます。期間を過ぎたからと諦めずに、一度相談してみるといいでしょう。
日頃から悪質な訪問販売を寄せ付けない対策も重要です。銀行のキャッシュカードや通帳、クレジットカードの管理は、なるべく家族が行いましょう。担当のケアマネにもこまめな見回りをお願いしたり、家族も自宅に不要な物を購入していないか定期的に確認しに行って状況を把握しておいてください。また、訪問販売お断りシールを玄関など販売者の目に付く場所に貼っておくのも抑止力につながります。
可能であれば、録画機能が搭載されたインターホンに変更し、来訪者を随時家族が確認できるようにしておくのも、お勧めです。
▽外岡潤(そとおか・じゅん) 東京大学法学部卒、07年弁護士登録、ブレークモア法律事務所に入所。09年「法律事務所おかげさま」を開設、現在に至る。著書に「弁護士が教える親の介護で困った時の介護トラブル解決法」(本の泉社)ほか多数。