教えて放射線治療 ドクター黒﨑に聞く

膵臓がん治療における「手術」と「放射線治療」の選択

(提供写真)
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 前回、残念ながらみなさんが期待するほど膵臓がんに有効な化学療法が存在しない、とお話ししました。では、実際に膵臓がんになって、手術と放射線治療のどちらかを選ぶよう、医師に言われた場合にはどうすればよいのでしょうか?

 臓器の奥に隠れて、血管に囲まれている膵臓がんを手術で完全に切除するのはなかなか困難なことが多いです。一方、放射線治療のこの四半世紀の進歩は著しいものがあります。放射線治療のための医師の集まりに参加すると、「(胃がんを除いて)もう手術はいらない」と話される放射線治療医の先生もおられます。ある面、私もそう思っていたり、自分が実際にがんになったら、手術は考えず放射線治療を選択するのではないかと思ったりします。

 では、手術のメリットはないのでしょうか? 「現在、膵臓がんに有効な化学療法は存在しない」とお話ししましたが、近年の抗がん剤や分子標的薬・免疫チェックポイント阻害薬の発展は目覚ましいものがあります。膵臓がんのタイプによっては、新たな知見が得られて有効な化学療法とされることもあります。

 その際は組織診断が必要で、十分な検体量を得るためには手術が必要な場合があります。実際、「がんであることを確定する目的として行った針生検の標本」と「その後に根治を目指して行われた手術で得られた大量の標本」では、得られるデータがちょくちょくずれる場合があるのです。

 ひとくちにがんといっても、その塊はさまざまながん細胞の集合体です。針生検ではその腫瘍のごく一部分を取るため、それを解析してもがんの塊のごく一部分しか理解されないことがデータがずれる一因です。

 それに対し、手術での標本は多くの場合、腫瘍全体を切除します。大量の検体であるため、この部分ではある抗がん剤が、またある部分では別の抗がん剤が効きやすい、ということがわかるケースがあるのです。

黒﨑弘正

黒﨑弘正

江戸川病院放射線科部長。1995年、群馬大学医学部卒。医学博士。日本専門医機構認定放射線専門医、日本放射線腫瘍学会放射線治療専門医。JCHO東京新宿メディカルセンターなどの勤務を経て2021年9月から現職。

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