冬の「脳梗塞」の前兆と予防法 気が付かないと命取り…TIA発症が前触れに

自分の体調の変化を正確に知る感覚を養いたい
自分の体調の変化を正確に知る感覚を養いたい(C)iStock

 脳梗塞は恐ろしい病気だ。突然発症して、命を奪うか、運よく生き延びても体の自由を奪う。リハビリに励んでも後遺症に苦しむ人は多い。脱水から血液が固まりやすい夏場に多いといわれるが、国立循環器病研究センターの調査によると、75歳超、中等症~重症者、心原性脳塞栓症の患者に限ると冬の割合が多くなる。

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 冬は心房細動(不整脈)が起きやすく、心臓でできた血栓は大きく高齢者には重大な結果を招くからだ。しかし、脳梗塞は注意していればその前兆を知ることができる。相武台脳神経外科(神奈川県相模原市)の加藤貴弘院長に話を聞いた。

「一般的に脳梗塞の前兆とされるのは『一過性脳虚血発作(TIA)』です。一時的に脳が虚血状態になり、通常は24時間以内に症状が消える病態をいいます。体の片側の脱力や麻痺といった『体の片側がうまく動かせない』という状況、あるいはろれつが回らない、言葉が出てこない・理解できないといった『思うように話せない』という状況、視野が欠ける、一過性に片側の目が見えなくなるといった『見え方がおかしい』状況などの症状が現れます」

 TIAを発症しながらその症状が短時間で消失するのは、血栓が脳の血管に詰まったものの、短時間のうちに血栓が溶けて血流が再開するからだ。

 しかし、これは脳卒中の前触れ発作で、その後、短期間に本格的な脳梗塞を発症するといわれている。

「実際にTIA発症後90日以内に15~20%、うち半数が2日以内に発症するとされています」

 60代のある女性は、休日にベッドから起き上がろうとしたが、左手に力が入らず立ち上がれなかった。しばらくベッドに横になっていたところ、症状は消えた。

 その後、しばらくしてスマホが鳴って娘と話をした記憶がある。しかし、何を話したかは覚えていない。気が付いたら病院で脳梗塞の治療を受けていた。娘が会話の様子がおかしいのに気付き、自宅に駆けつけ、脳梗塞で倒れていた女性を発見。病院に運んだという。

■穏やかな運動で体の異変を知る

「体の片側がうまく動かないという状況は、具体的には、食事中に手に力が入らなくなり箸や茶碗を落としてしまう、片足が麻痺して踏ん張れずに転倒してしまう、まっすぐ歩けず体が傾く、片側の口元がだらんと下がるといったケースです。腕の異変については、手のひらを上にして前にまっすぐ伸ばすことでチェックできる場合があります。麻痺がある方の腕が自然と下がっていって、手のひらが内側に向いてきます。足のしびれは、脱力感で知ることが多いようです。顔については本人はわからず、他人に気付いてもらうことがほとんどです」

 言葉が出ないケースでは、短いフレーズが言えなくなる。たとえば、「メガネをかける」と言おうとしても、「メガネ」という言葉が出なくなるといった具合だ。タ行やラ行の舌音がうまく発音できなくなる傾向も。

 視野は半分欠けてしまい、右半分または左半分の視野にあるものが見えなくなる。ほかにも、服が正しく着られない、言葉で指示された行動がとれない(じゃんけんのグー・チョキ・パーや別れの時のバイバイの動作)などがある。こうしたTIAの病態は本格的な脳梗塞の前兆とされるが、できればそうなる前に対策を練りたい。どうしたらいいのか?

 冬に多い心原性脳塞栓症は心房細動(脈が速いタイプの不整脈)が原因で起きる。そのリスクを知るには自分で脈を測り、不規則なリズムを打っていないかを調べ、心房細動の疑いがあれば、医療機関を受診して心電図検査や超音波検査を受けることだ。むろん、動悸、息切れ、胸痛といった自覚症状がある人は早めに医師に相談する。

「脳梗塞は、高齢に加えて、高血圧や糖尿病といった生活習慣病のある人、喫煙する人に多い。その治療や禁煙などに専念することが大切です。またそれ以上に重要なのは、日々自分の体調に問いかけることです。人は働くために若い頃から無理を続け、眠い、つらい、痛いといった感覚を抑えて生きています。しかし、それを長年続けていくと“あるべき健康体”がわかりづらくなります。年を重ねれば誰しも身体的な不安要素を抱えます。その中で、安全に体を動かすにはどうするかを考えるべきです。それには自分の体調の変化を正確に知る感覚を養わなければなりません。たとえば、ヨガや太極拳といった体を鍛えるというよりも、自身の体調を知るための運動を日々行い、不調をいち早く知る努力をすることが大切だと考えます」

 あなたは、自分の体調の変化を正確に把握できていますか?

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