日本版「足病医」が足のトラブル解決

糖尿病で足の切断に至ってしまうケースはどれくらいあるのか

足の切断は精神的な負担が大きい
足の切断は精神的な負担が大きい

 糖尿病性足病変の患者さんが日頃のフットケアを怠って、抗生物質が効かないほど感染が広がってしまったり、暴飲暴食や喫煙を続けて動脈硬化が進行すると、虚血が進行してカテーテル挿入による血行再建術が難しくなります。そうした既存の治療法でコントロールが不能になれば、足を切断せざるを得なくなります。実際、国内に200万人いるとされる糖尿病患者のうち、少なくとも約2~3%は切断に至っている現状です。

 切断が避けられなかった場合には、つらい処置を行うことになります。足を切断する位置は、感染の広がりや血行の有無、解剖学的な所見から判断します。人間はかかとがないと地面からの衝撃を吸収できず歩けないので、足の指を切断する際はかかとを残しますが、感染や血行障害の範囲がかかとを越えている場合には、まずは体重をしっかりと支えられ、義足がしっかりとはまる膝下約15センチからと決められています。

 通常、足の切断手術は全身麻酔下で行うため手術中に痛みはありません。ですが、人によっては麻酔から覚めると、術後に失った足がいまだに存在しているかのような感覚や、時には痛みすら感じる「幻肢」を訴えるケースもあります。

 全身状態が悪く、全身麻酔に耐えられないと判断されれば、体の一部のみを麻痺させる伝達麻酔で行います。切断はチェーンソーのような機械を用いて行うので、麻酔で痛みはないものの激しい振動は伝わります。そのため、中には手術中に自分の足が切断されている状況に耐えられず、術後にせん妄を起こして精神科に転科してしまった患者さんもいます。それほど、切断は精神的な負担が大きいのです。

 術後は、両足を太ももから切断している方でなければ、基本的に靴や義足を作製します。ただ、50代など比較的若い人であれば再び歩けるよう義足を装着してリハビリを行えるのに対し、高齢かつ糖尿病で全身状態が悪く切断に至った人の場合、足の血管だけでなく心臓の血管も動脈硬化が進行しているので、十分なリハビリが行えません。再び歩行できるまでに時間がかかるうえ、長引くリハビリに挫折して車椅子生活になり、予後が悪くなる方も多いのが現状です。

 実際、切断から1年後に生存している確率は50%程度ともいわれています。生存率を下げないためにも、足の切断は避けなければならないのです。

 そこで私が患者さんの命と足を守るために実現したのが「血管再生治療」です。次回は実際に治療を受けた患者さんの実例を交えながらお話しします。

田中里佳

田中里佳

2002年東海大学医学部卒業、04年同大学形成外科入局、06年米国ニューヨーク大学形成外科学教室留学、12年順天堂大学医学部形成外科学講座准教授、医局長を経て現職を務める。

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