動脈硬化による虚血性疾患の治療は、ステントやカテーテルを用いた血行再建術やバイパス術が行われていますが、治療対象は大血管のみで、足首より先にある微小血管に対する治療法は確立されていません。そのため、既存の治療に抵抗性な糖尿病性足潰瘍で足の指が壊疽すると、切断しか選択肢がない現状です。実際、日本では足潰瘍で年間約1万本の足が切断されているといわれています。
そういった難治性足潰瘍の患者さんの足を救うため、私が研究に取り組んでいるのが「血管再生治療」です。
1997年に、血管を作る血管幹細胞(血管内皮前駆細胞:EPC)が、骨髄と血液中に存在していると明らかになりました。既存の治療で効果がなく切断を余儀なくされた足に血管幹細胞を移植すると、その後、血管が再生することが分かったのです。
糖尿病性足潰瘍で足が壊疽し切断を宣告された60代の患者さんは、「どうしても足の切断は避けたい」と、当時、東海大学で再生医療の研究をしていた私のもとを訪れました。そこで壊疽した部位に本人の血液から採血した血管幹細胞を移植すると、血管が再生され傷は治り切断を免れました。その後、再び足壊疽が起こることなく、12年後に亡くなられるまで足を切断することなく、生涯ご自身の足で歩いて過ごされました。
ただ、EPCの数は全血中細胞のうち0.1~1.0%と極めて少ないので、大量に血液や骨髄液を採取する必要があり、患者さんの体に大きな負担がかかります。糖尿病患者の場合、自身のEPCも糖尿病によって侵されるので、健常者と比べて質が悪く、十分な効果を得られにくいといった問題もありました。
そこで、今回私たちが開発したのが次世代の再生医療「生体外培養増幅法(QQc法)」です。患者さんから100~200ミリリットルの血液を採取し、その中に含まれる末梢血単核球(MNC)を取り出して約1週間培養し、治療に必要な量を製造する方法です。この方法で得られた細胞(MNC-QQ細胞)は、局所麻酔をした患部の周辺に注射して移植します。現在、難治性虚血性下肢潰瘍の患者さんを対象に臨床研究を行っていて、これまでQQc法を受けた全例で、痛みの改善や血行の改善、歩行の維持が見られ、有効性のほか一定の安全性も確認されています。
また臨床研究だけでなく、QQc法を希望される患者さんに対しては、対象患者さんに該当することで順天堂医院で保険外診療を行っています。
現在、開発した技術を製品化するために薬事承認の取得に向けて株式会社リィエイルを立ち上げました。医薬品に改良したRE01細胞を3~4年後の保険適用を目標に、研究・開発に取り組んでいきます。
日本版「足病医」が足のトラブル解決