仕事を辞めると男性は一気に老け込む、と一般的によくいわれますが、「わが家の場合は、母親でした」と話すのは、50代女性のAさん。兵庫県出身で、結婚して現在は高知県で暮らしています。
Aさんのご両親は共働きで、父親が60歳で定年退職。その後、嘱託で働いていたものの、63歳で完全にリタイアし、現役時代から借りていた畑での野菜作りにいっそう精を出すようになりました。
キュウリがとれすぎたからと近所に配り、自家栽培のカボチャの煮付けがうまくできたからと1人暮らしの知人宅に届け、リタイアしたとはいえ、忙しい毎日。
日々の買い物は個人商店を何軒もハシゴし、ゴミの日などには主婦が中心の井戸端会議にも加わる。Aさんが実家に帰って父親と一緒に歩いていたりすると、通りすがりの人が「娘さん、帰ってきてるんやね」「こないだのお菓子、おいしかったわ。ありがとう」などと次々に父親に声を掛けてくる。
「いつの間にそんなに近所の知り合いの輪が広がったの、と驚きました」(Aさん)
一方、父親より5歳年下の母親は、65歳まで働き、定年退職。「仕事を辞めたら旅行でも行こうかな」と話していたのが、リタイアした途端に気が抜けたようで、どこにも出かけようとしない。父親の話によれば、一日ぼんやりとテレビを見ていて、お化粧もしなくなった。
畑仕事に誘っても「だるいから」「めまいがするから」「なんだか調子が悪いから」……。
そんな生活が1、2年続き、「お母さんの様子がおかしい」と父親からの連絡でAさんが様子を見に行った時は、認知症を疑う症状が出ていました。
なかなか病院に行ってくれず、アルツハイマー型認知症と診断されたのは約半年後。それから5年、Aさんは父親、大阪に住む妹と協力し、高知県と兵庫県を行き来し、母親の介護をしています。
この連載の担当者が今ハマっているのがディスコだそうで、かかっている曲が1970~80年代が中心ということもあり、常連客は60代半ばが中心。70代のお客さんも多いそうです。
平日はカラオケ、土日がディスコという営業スタイルで、常連客の中には、平日はカラオケで踊りながら熱唱し、土曜日は夕方から深夜過ぎまで、日曜日は午後の早い時間から夜まで踊り続ける方もいる。お酒よりも踊り重視。お酒を飲まず、車や自転車で通っている常連客もいる。
「皆さんすごく元気なんです。毎週顔を合わせ、おしゃべりして、笑って、踊って。踊り慣れていないお客さんが来たら、親切に教えたりして。あの生活を送っていたら、脳の機能も落ちないんじゃないかと思いました」(担当者)
お酒の量が少ないというのが前提ですが、自分が若かった頃の曲を聴き、踊り(適度に体を動かし)、異性も含めさまざまなバックボーンの方と交流する。そういう環境は、脳の活性化につながりますし、身体的・心理的・社会的フレイル対策にもなるので、認知症対策にもなるでしょう。
卵が先か、ニワトリが先か、という点もある。いろんなことに関心を抱き、自ら赴き体験しようとする。新たな人間関係をつくることをいとわない。趣味をもっと極めたいとアンテナを広げる──。もともとそういう意欲が高い方が、さらに脳への刺激が加わって、意欲面でプラスのループが出来上がっているわけですね。
ディスコといえば昨年、フレイル予防や社会参加促進を目的に長野市でおおむね60歳以上の方を対象にしたディスコイベントが開催されたのが記憶に新しい。2019年10月に初めて開催され、コロナ禍を経て4年ぶりに復活。ヒョウ柄やゴールドなど思い思いの衣装(派手め)に身を包んだ男女が集まり、若い頃に流行したディスコを存分に楽しむ。その様子を報道するテレビでは「年を忘れて」とコメントする方も出ていましたが、脳のためには、どんどん「年を忘れる」活動をしてもらいたいと思います。