疲労の謎がここまで分かった

疲労の謎がここまで分かった(1)疲労の程度は唾液で測定できる…ヘルペスウイルスの数でわかる

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 日本人10万人を対象にした2023年の調査によると、78.5%の人が「疲れている」と答えている。では、そもそも「疲労」とは何なのか、なぜ「疲労」するのか。疲労研究の世界的第一人者、近藤一博・東京慈恵会医科大教授に「疲労」の謎を解き明かしてもらった。

「疲労」とはなにか──。まず、疲れたという「疲労感」と、「疲労」とは違うものだと考えてください。

「疲労感」とは「休みたい」という気持ちです。過剰な活動によって体の組織に障害が生じている時、脳にその危険を知らせてくれるのが「疲労感」という感覚です。「生体アラーム」の一種とされています。一方、疲労感の原因となる「疲労」は、「細胞の停止や細胞死」「体の障害や機能低下」です。

 さらに「疲労」は、「生理的疲労」と「病的疲労」の2種類に大別されます。1日休めば回復するような短期的な疲労を生理的疲労といいます。

 これに対し、少々休んだくらいでは回復しない疲労は病的疲労と呼ばれます。病的疲労の代表的なものが、慢性疲労症候群、うつ病、そして新型コロナ後遺症です。風邪をひいた時に感じる疲労のようなものは「病的疲労」には含まれません。普通の風邪であれば短期間で回復するからです。

 では、私たちが仕事などで疲れているとき、その疲労の度合いがどれほどなのか、正しく測定するにはどうしたらいいのでしょうか。実は、疲労の度合いは、唾液中のヘルペスウイルスの数でわかります。

 われわれは、ヒトに感染するヘルペスウイルスの中で6番目に発見された「ヒトヘルペスウイルス6」(HHV-6)に注目しました。HHV-6は、ほぼすべての赤ちゃんが幼児期に親やきょうだいを経由して感染し、突発性発疹という病気を引き起こすウイルスです。その後、ほぼ100%の人の体内で一生涯、潜伏感染をつづけます。

 ヒトの体内に潜伏している、このHHV-6は、「残業がしばらくつづいた」といった中程度の疲労によって「再活性化」し、唾液中に放出されます。実際、デスクワーカーの勤務、運動選手の練習といった労働や訓練をした人の疲労の度合いを調べた結果、それらによる疲労が、唾液中のHHV-6の量で測定できることがわかりました。

 なぜ、疲労するとHHV-6は活性化されるのでしょうか。もし、潜伏している宿主が死んでしまうと、HHV-6も道連れになってしまいます。そこでHHV-6は、宿主が死ぬ前に再活性化して、元気な宿主(多くは新生児)に乗り換えようとします。HHV-6は、宿主の疲労を感じ取っているということです。

 ただし、この方法で測定できるのは「生理的疲労」と呼ばれる疲労だけなのです。慢性疲労症候群など「病的疲労」患者にはHHV-6の再活性化が見られません。

 なぜ、「病的疲労」の場合、HHV-6が再活性化しないのか。そもそも「生理的疲労」と「病的疲労」は、メカニズムがどう違うのか。次回、解説しましょう。 (つづく)

近藤一博

近藤一博

大阪大医学部卒。近著「疲労とはなにか」(講談社)

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