新インスリン治療「BPT療法」は何がすごい? 経口薬への切り替えも可能に

写真はイメージ(C)iStock
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 インスリン療法というといまだに糖尿病末期の治療法と思い込んでいる人がいるが、間違いだ。ひと昔前は糖尿病が進行してからインスリン注射を打ち始めていたため、結果的に「インスリン療法を始めてしばらくして目が見えなくなった」「透析になった」というケースもあった。

 また、「インスリン療法を始めると膵臓(すいぞう)が楽を覚えてインスリンを分泌しなくなるかも」との誤解もあった。しかし、いまは糖尿病の初期段階でインスリン治療を始めることで、合併症を回避できるばかりか、途中でインスリン治療をやめて糖尿病の飲み薬に切り替えられる人も増えている。

 そんなインスリン治療に新たな方法が登場し、注目されている。糖尿病専門医で「しんクリニック」(東京・蒲田)の辛浩基院長に話を聞いた。

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「BPT(Basal-supported Prandial GLP-1RA Therapyの略)療法です。インスリンの基礎分泌の不足分を補うための長時間作用(持効)型のインスリン注射製剤と食事摂取後にインスリン分泌を促すGLP-1受容体作動薬を1日1回、同じタイミングで摂取するやり方です。空腹時血糖と食後血糖を同時に抑えるのが狙いです。最近は、この2つの薬剤を1本の注射薬にしたものが続々と発売され、新たな糖尿病治療として注目されているのです」

 インスリンは血糖を下げるホルモンで、膵臓から分泌される。GLP-1(グルカゴン様ペプチド-1)は食物の摂取後にインスリン分泌を促すインクレチン(消化管ホルモンの総称)のひとつで、膵臓の細胞の表面にあるGLP-1受容体を刺激することで活性化する。

 これまでも経口血糖降下剤とインスリンを組み合わせたBOT療法があったが、期待したほどの効果が得られないケースもあった。

 しかし、BPT療法の登場で、血糖コントロールが可能になる患者が続出しているという。

「50代の男性はBOT療法でHbA1c(血糖正常化を目指す際の目標値6.0%未満)が12%から8%台まで下がったものの、体重が増加しました。そこで、さらなるHbA1cの低下と体重の減少を実現するためにBPT療法を採用したところ、HbA1cは7%以下となり、体重も減少することに成功したのです」

 いままでのインスリン療法は、食事をする前後に即効型あるいは超即効型のインスリン注射を打って食後高血糖を抑えつつ、空腹時の血糖値が高い人には、インスリンの基礎分泌不足を補うための持効型のインスリンも併せて打っていた。

「しかしインスリン注射は長期間の使用により、血糖が改善して体重が増えていくことがあります。それまで高血糖によりブドウ糖を体内に取り込めずに尿糖として排泄し、それを利用できずに体重が減っていたのが、血糖値が正常化することで体重が正常に戻ったり、過食により増えやすくなるからです」

 そのため、近年は食事の前後はインスリン注射に代えて飲み薬を使うBOT療法が開発されたという。

■空腹時の食欲も抑えられる

「ところが、1日1回インスリン注射を打ったうえに、食事ごとに飲み薬も飲むBOT療法は人によっては飲み忘れて、むしろ血糖コントロールが乱れる場合がある。そこで、1日1回注射するだけでいい、持効型のインスリン注射製剤と食後血糖の抑制に効果があるGLP-1受容体作動薬の合剤が開発されたというわけです」

 GLP-1受容体作動薬は食べ物が消化管を通過するのを感知してインスリン分泌を促す。無駄に膵臓を働かせることなく食後高血糖を抑えられるので、低血糖も起きにくい。胃の中の食べ物をゆっくり小腸に送り出すため、満腹感が得やすい。

 脳にも作用して空腹時の食欲も抑えられるので、減量効果があることも報告されている。

「BPT療法の登場で、インスリン注射の量が劇的に減った患者さんが増えており、その中にはインスリン注射をやめられる患者さんもいます。また、GLP-1受容体作動薬は心血管や腎臓の保護作用があることが報告されています。糖尿病による心血管イベントや腎臓病の回避の手助けにもなると思います」

 なお、BPT療法には、①インスリンデグルデク(持効型インスリンアナログ製剤:トレシーバ)とリラグルチド(GLP-1受容体作動薬:ビクトーザ)の配合剤、②インスリングラルギン(持効型インスリンアナログ製剤:ランタスなど)とリキシセナチド(GLP-1受容体作動薬:リキスミア)の配合剤がある。 自分がどちらのタイプがいいかは、かかりつけの糖尿病専門医に相談する必要がある。

 一般的にはインスリンの使用量が多くて空腹時の血糖コントロールが難しい人は①、食後血糖のコントロールが難しい人は②の使用が望ましい、と考えられているという。

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