一生見える目をつくる

子供の近視の進行を60%軽減させる「低濃度アトロピン療法」

成長期の近視は放っておくと進行するので親の責任で管理を
成長期の近視は放っておくと進行するので親の責任で管理を

 子供の近視の進行予防が期待できる治療法「オルソケラトロジー」。寝ている間に特殊なレンズを入れて、朝起きたら外す。そうすると日中は裸眼で過ごせるぐらいの視力に回復する治療法で、軽度から中等度の近視の方に有効です。

 ほかに子供の近視の進行を抑制する治療法として、近年注目が集まっているのが「低濃度アトロピン療法」。これは「アトロピン」という目薬を約100倍に薄めて点眼する治療法です。

 低濃度アトロピンの点眼で、「近視の原因である眼軸長(眼球の長さ)の伸展を抑制する効果がある」と、2012年にシンガポールの国立眼科センターが報告。

 その後、日本でも国内の7つの大学で臨床研究が行われ、近視の進行を平均60%軽減させるという報告もありました。

 そもそも「1%アトロピン」の点眼薬は、かなり昔から近視治療に使用されていた薬なんですね。ただ、「瞳孔が開くことで、まぶしさや強い光が不快に感じる」「手元が見えにくくなる」「結膜炎などアレルギー反応が出る」などの副作用がありました。

 そこで、アトロピン点眼薬を100倍に薄めた低濃度アトロピン点眼薬がつくられました。超低濃度で点眼することで副作用をほぼ回避しながらも、近視の進行抑制効果があると実証されたため、国内でも広く使用されるようになってきています(必ずしも副作用が出ないということではありません)。

 低濃度アトロピン療法の点眼薬は1日に1度、就寝前に1滴を点眼。この治療法の対象となるのはおおよそ6~17歳で、軽度または中等度の近視の方(マイナス1D~マイナス6Dが該当します。病院で視力検査を)。

 前述のオルソケラトロジーとの併用で、さらに近視の進行抑制効果が高まることもわかっています。もちろんどちらかのみでも抑制効果はあるのですが、私は併用をおすすめしています。

 成長期の近視は放っておくと進行します。軽度から中等度の近視であれば、できるだけ前述の治療法を早く始め、成人になるくらいまで続けるのがいいと思われます(近視は17~18歳くらいが進行のピークなのです)。親の責任としても18歳まではなるべく近視が進行しないように、視力の管理をしてあげる必要があります。

 低濃度アトロピン療法もオルソケラトロジーと同じく、保険適用ではありません。点眼薬1本の価格は当クリニックでは約1000円。1カ月で1本を使い切っていただきます。なお、低濃度アトロピン療法は近視が正視になるということではありません。あくまでも現在の近視を進行させないようにするための治療法となります。

 低濃度アトロピン療法を始めるまでの簡単な流れはまずお子さまの視力や目の状態などを検査・診察した後、問題がなければ1カ月分を処方します。

 1カ月後に受診していただき、目の状態を確認して問題がなければ治療継続となります。その後は3カ月ごとの定期検査が必要となります。

荒井宏幸

荒井宏幸

クイーンズ・アイ・クリニック院長。医学博士・眼科専門医。医療法人社団ライト理事長。みなとみらいアイクリニック主任執刀医。防衛医科大学校非常勤講師。

関連記事