ある日突然、1人暮らしの自宅で倒れ、3日目に隣人に発見された肺がん末期の女性(75歳)が当院での在宅医療を開始されました。
聞けば、ここ何年も医療機関にはかかっておらず、日ごろから近所付き合いもあまりなく、そのために発見が遅れたようでした。
しかし頼れる人が全くいないのかというとそうではなく、同年代の親戚が近くに住んでいて、緊急時の連絡先にしているとのこと。医療機関に受診したり入院したりする場合は、患者さん本人に代わり治療方針などを決めるキーパーソンとして登録もしているとの話でした。
そのキーパーソンの方は聴覚障害があり、ご本人の希望で連絡は電話ではなく、もっぱらスマートフォンを使った文章でのやりとりで行っています。
実は医療業界はいまだにアナログ。このネット全盛の現在でも、慣例的に電話でやりとりをするということが根強くあります。それでも、今回のように電話を苦手とする患者さんやそのご家族に関しては、メールやSMSでの対応も行っています。
最近では「むくんでしまった」「皮膚が炎症を起こしているかもしれない」といった患者さんの状況を確認する際にも、患者さんや訪問看護師から撮影した患部の写真を事前にメールで送ってもらってから往診するということも珍しくありません。
これからはこのように電話より、スマートフォンによるSMSでのやりとりのほうが負担が少なく、よりスムーズに相談できると感じる患者さん、医療従事者が多くなることでしょう。
2024年4月に診療報酬と介護報酬が同時に改定されます。団塊世代が75歳以上を迎える2025年問題を目前に、増え続ける医療費や介護負担の軽減、さらには限られた医療資源の有効活用などといった課題にどう取り組むかなどに注目が集まっていますが、その中でICTの活用も議論となっています。
特に地域の多様な事業所が連携し、患者さんを支える在宅医療では、ICTを用いていかに迅速に複合的に情報共有できるかがカギとなります。事実、今回の診療報酬改定ではICTを用いた情報共有に対し医療保険点数が加算されるなど、医療におけるICT化を国も後押ししようとしています。
スマートフォンを活用した患者さんとのやりとりは、使い方によっては非常に有効だと考えます。当院でも現在、患者さんと診療予約の連絡を取ったりする場合はもちろん、訪問看護師やケアマネジャーとの打ち合わせなどにも公式LINEを用いてコミュニケーションを取るようになっています。結果、互いの負担や時間のロスを少なくすることができるようになりました。
現状では70代後半でスマートフォンを使いこなす方はそれほど多くはないかと思いますが、これが10年後20年後には状況が大きく変わり、高齢の方でも普通に使いこなす時代となっているかもしれません。
ただこの先ICT化がいくら進んだとしても、患者さんや家族に寄り添う在宅医療の基本は変わることはないでしょう。