老親・家族 在宅での看取り方

脳腫瘍で余命1~2カ月の30代女性「最期の時を家族と過ごしたい」

ご家族の待つ自宅で過ごしたい…
ご家族の待つ自宅で過ごしたい…(C)iStock

 その患者さんは脳腫瘍終末期のため、大学病院から余命1~2カ月との宣告を受けた30代後半の女性でした。

 当初は病院で積極的に治療することを望まれていましたが、医師からもはやなすすべがないと告げられると、ご家族の待つ自宅で過ごしながら最期まで積極的に治療したいと、覚悟を決め在宅医療を選ばれたのでした。

 患者さんのご両親はそれぞれ遠方に住んでいましたが、そんな娘さんのために同じ屋根の下で暮らすことに。

 一般的に抗がん剤治療を行う場合には栄養剤の投与など、頻繁に点滴を必要とします。点滴や注射のために何度も針を刺していると、血管が細くなったりもろくなったり、次第に針が血管に入りにくくなることがあります。この患者さんの場合も、同じく血管が細くなり、点滴の針が刺さりにくいといった報告を病院から受けていました。

 血管に針が入りにくいと、薬が血管の外に漏れてしまいます。そのため腕の血管からカテーテルを挿入し、心臓に近い太い静脈に液剤を流すPICC(中心静脈カテーテル)を患者さんに提案しました。

 このPICCは挿入後は常に腕にチューブが設置されているため、多少の違和感や煩わしさはあります。しかし点滴するたびに針を抜き入れする手間と、感染症のリスクは確実に減ります。しかも薬剤の投与がより効果的だといえます。

 かつてはこの処置を行うには入院が必要だったのですが、今では自宅で簡単に1時間余りで実施できるようになりました。

 ただ食事はご家族で一緒にちゃぶ台を囲んで取ると事前にお話を伺っていましたので、患者さんの手の動きを確保できるよう動線に配慮し、局所麻酔を使いエコーで血管状態を確認しながら、およそ30センチのカテーテルを挿入したのでした。

「体の具合はどうですか。頭が痛かったりしませんか」(私)

「大丈夫です。ただぼやーっとモヤがかかった感じがします」(本人)

「頭痛はなくて、お薬は飲まずに経過しています。スッキリする日もあるみたいです。昨日は薬が効いてよく眠れたみたいです」(同席した訪問看護師)

「やっぱり寝ないとダメなんですね」(本人)

「そうですね、眠れてよかったですね」(私)

 頭が重くなりもやもやしている時もあるとのことですが、容体は安定しているご様子です。

 このPICCの造設は、患者さんの身体的、精神的負担を軽減することができると共に、「病院に行くことができない」という理由で治療を諦めることなく、自分らしい生活を続けていくことが可能です。

 いつでもどこでも高度な医療を自宅で受けることができる。そんな医療を持ち運ぶことが当たり前な未来を目指し、当院ではこれからも患者さんやご家族の側に立った、さまざまな治療や処置を試行錯誤しながら対応していきたいと思っています。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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