急増する大動脈弁狭窄症の治療法「TAVI」はどんどん進化している

年々進化
年々進化(C)iStock

 近年、大動脈弁狭窄症に対して行われる治療では、「TAVI」(経カテーテル大動脈弁留置術)が主流になっている。カテーテルを使う負担の少ない低侵襲治療で、年々進化している。循環器専門医で東邦大学名誉教授の東丸貴信氏に詳しく聞いた。

 大動脈弁狭窄症は、心臓の出口にあって、逆流を防止する大動脈弁が動脈硬化などによって硬くなり、極端に開きにくくなる病気だ。血流が悪くなるため、胸痛や息切れなどの症状が現れ、重症化すると突然死につながるケースもある。弁の動脈硬化によるもので、70代から増えてくる。患者は高齢者がほとんどで、高齢化が進む日本では75歳以上での有病率は13.1%、60歳以上の患者数は約284万人と推計されている。

「悪くなった大動脈弁を完全に治すには、患者自身の弁を修理したり、弁を取り換える外科手術が必要で、適応がある患者であれば手術が推奨されます。しかし、高齢で体力が衰えていたり、持病を抱えている患者はリスクが高く、これまでは手術をあきらめざるをえませんでした。そんな患者にとって救いの道になったのがTAVIなのです」

 TAVIは、カテーテルを太ももの付け根などから心臓まで挿入し、折りたたんだ人工弁を運んで留置する治療法で、外科手術のように胸を大きく切開したり、人工心肺を使って心臓を止める必要もなく、体への負担が少ない。そのため心臓手術が難しい超高齢者でも受けることができ、13年の10月に保険適用となった。

■年間件数は外科手術より多い

「適用になった当時は、外科手術のリスクが高い患者だけがTAVIの適応でしたが、18年には過去に弁置換手術を行った患者に対する『TAV in SAV』、21年には手術リスクが低い患者や人工透析患者も保険適用となりました。さらに23年には、一度TAVIの治療を受け、その後に再び人工弁が劣化して再治療が必要な患者に対し、2度目のTAVIを行う『TAV in TAV』が実施できるようになりました。90歳を越える患者でもより年齢の低い人と同じようにTAVIが安全に実施されています。そうしたこともあって、現在ではTAVIの実施件数は年間1万件を超え、外科手術よりも多くなっています」

 保険適用から10年が経ち、TAVIがますます広がっている理由のひとつにデバイスや診断技術の進化がある。

 TAVIのアプローチには、太ももの付け根からカテーテルを挿入する経大腿動脈アプローチ、鎖骨の下から挿入する経鎖骨下動脈アプローチ、肋骨の間を小さく切開して心臓の先端から挿入する経心尖アプローチ、胸骨上部を小さく切開して挿入する経大動脈アプローチなどがある。患者の血管や全身状態によって選択されるが、デバイスが細くなったことで、より安全な経大腿動脈アプローチが実施できるようになった。TAVI用の人工弁も改良され、弁の周囲の逆流は軽減し、耐久性も向上している。

「また、TAVIでは治療前の評価がとても重要です。CTや心エコーといった画像診断機器が進化したことで、アプローチ場所や人工弁サイズの選択、心臓損傷や血管損傷などの合併症のリスクをよりしっかり評価できるようになり、治療成績の向上につながっています。かつて、TAVIは治療後30日以内の死亡が5%でしたが、いまは2%以下になっています。施設によっては、周術期の死亡率が0%という医療機関もあります」

 こうした進化と成績の向上もあって、海外での大動脈弁狭窄症の治療は、75歳未満は外科手術、75歳以上はTAVIと、はっきり選択されるようになったという。

「日本の弁膜症治療ガイドラインでは、手術とTAVIの明確な年齢基準は設定されていませんが、80歳以上はTAVI、75歳未満は手術というのが目安になってきています。ただ、TAVIは保険適用になってまだ10年なので、20年後、30年後といった長期予後がどうなるかわかっていません。今後そうした安全性と有効性がはっきり確認されれば、さらにTAVIが広がっていくのは間違いないでしょう」

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