虫さされと思ったら…そのブツブツは「帯状疱疹」の恐れあり

 虫刺されと思っていたブツブツは、帯状疱疹かもしれない。対処を誤ると、後遺症に長く悩まされることもある。東京慈恵会医科大学皮膚科学講座・松尾光馬講師に話を聞いた。

 帯状疱疹は、水ぼうそうを発症したことがある人なら、だれでも可能性のある病気だ。
「水ぼうそうが治っても、その原因の水痘帯状疱疹ウイルスは神経細胞の集合体である神経節に潜伏し続けます。そして、加齢や何らかの疾患、薬剤などで体の免疫力が低下した時に、帯状疱疹として出てくるのです」

 典型的な帯状疱疹は、まず痛みが出る。ピリピリと刺すような、皮膚の奥がズキンとするような痛みだ。だいたい1週間以内に赤いポツポツとした発疹が現れ、2~3日すると水ぶくれになる。症状が出てくる場所は、目の上、胸、お腹が多く、体のどちらか片側だ。

「痛みが軽かったり、あるいは全くなかったりすると、発疹だけを見て虫刺されやかぶれなどと間違える患者さんも多い。さらに、発疹の出てくる前の痛み(前駆痛)の時に皮膚科に来ても、発疹が出なければ帯状疱疹かどうか判別できません。痛みだけだと、片頭痛、肋間痛などほかの原因も考えられるからです」

 目安として、1週間で発疹の拡大は止まり、その後、1週間でカサブタに、さらに1週間経つとそれが取れる。放っておいても、帯状疱疹が自然と治る人もいる。

■放置すれば後遺症が出るリスク

 なんだ、大した病気じゃないな――。そう考えた人もいるだろう。しかし、それは大きな間違いだ。

 帯状疱疹を発症すると、その後、「帯状疱疹後神経痛」という後遺症に悩まされる人がいるのだ。発疹は治ったのに、痛みだけが残る。3カ月以上続いたら、帯状疱疹後神経痛と診断される。

「前駆痛から発疹、水ぶくれにかけて生じる痛みは、水痘帯状疱疹ウイルスによる炎症の痛み。炎症は鎮痛薬や抗ウイルス薬で抑えることができます。しかしその後、炎症で神経細胞や神経線維が変性したことによる痛みに変化する。神経の変性は元に戻せません。抗てんかん薬、抗うつ薬、医療用麻薬などを投与する対症療法になります」

 神経の変性の度合いで、痛みの程度、持続期間などが変わる。数カ月で痛みが消えてしまう人もいれば、数年で日常生活に支障がない程度まで薬で痛みが抑えられる人、帯状疱疹後神経痛で10~20年も外来に通っている患者もいるという。

「複数の薬を組み合わせたり、種類を変えたりと打つ手はいくつかありますが、帯状疱疹後神経痛が2年以上続くと、完全に治る人はほとんどいません」

 帯状疱疹後神経痛になりやすい人は、(1)最初の発疹が重症(2)60歳以上(3)発疹の範囲が広い(4)1個1個の発疹が大きく、隣の発疹とくっついている――などの特徴がみられる。ただし、これらに該当しなくてもなる可能性はあるので油断は禁物だ。ちなみに、60歳以上の場合、10人に1~2人が帯状疱疹後神経痛を発症するといわれている。

 そのリスクを回避するには、早く治療を開始することだ。

「発疹が出て3日以内の治療がベストです。帯状疱疹後神経痛を起こす率は、3日以内でも10日以内でも差はないというデータが出ています。しかし、神経の炎症後の変性の程度が痛みに関係しているとなると、早く治療をした方が炎症の広がりを食い止められると考えられます」

 帯状疱疹は高齢者に多い病気だ。帯状疱疹後神経痛が気になるなら、帯状疱疹ワクチンという予防接種を受けるのもいい。ワクチンは現時点では健康保険が利かないが、効果は10年は続くとみられている。

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