Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

ピカ子さんが判定された「前立腺がん確率50%」の意味

タレント・ピカ子さん
タレント・ピカ子さん(本人のブログから)

 テレビの医療番組で検査を受けたタレントのピカ子さん(46)が、「前立腺がんの可能性50%」と判定され、話題を呼んでいます。その検査はPSAで、血液検査で分かる前立腺の腫瘍マーカーです。会社の健康診断のメニューには含まれませんが、男性の人間ドックのメニューとしては一般的。中高年の男性なら、受けたことがあるかもしれません。

 基準値は4以下のところ、15・9。番組に出演した医師が「10を上回った場合は、前立腺がんの可能性が50%以上」と語っています。

 確かにPSAの数値とがんのリスクを関連づけると、「50%以上」は妥当です。しかし、PSAは、がんでなくても炎症で数値が上がることがあり、必ずしもがんとはいえません。継続して検査を受けることが大切。実際、この方は精密検査を受けるそうです。

 そう聞くと、大ごとに思えるかもしれませんが、前立腺がんはがんの中でも穏やかながん。一般に前立腺がんは50歳以上で発症し、60歳以降に急増。死亡時の剖検で、80歳以上の4割に見つかります。

 剖検で見つかるというのは、前立腺がんは生命に影響を及ぼさず、それ以外の病気が命を奪ったということです。それくらい穏やかながんですから、治療のガイドラインにも、積極的に治療を行わず経過観察で済ます「待機療法」が明記されているほど。

 そうはいっても、ほかの臓器に転移して生死を脅かすような悪性のタイプもあります。そういった悪性度を見極める検査が生検で、この方が受ける精密検査も恐らくこれでしょう。

■治療の分岐点

 前立腺は尿管を取り囲むクルミ大の臓器で、無作為に10カ所から組織を採取。悪性度によって5種類に分け、1~5に分類し、最も多い細胞の悪性度と2番目に多い細胞の悪性度を足して判定します。

 その数値はグリソンスコアと呼ばれ、最低2~最高10。それが8~10なら悪性度が高いのですが、前述した通り前立腺がんは一般に高齢で発症します。ですから、悪性度が高くても、期待される余命の長さによっては待機療法が選ばれることがあるのです。

 治療にはメリットがありますが、手術には尿失禁や尿漏れ、放射線には直腸炎、ホルモン療法には筋力低下などがデメリット。たとえば、70代後半で悪性度の高い前立腺がんが見つかっても、平均寿命は81歳ですから期待余命はわずか。そういう状況だと、治療のメリットよりデメリットが上回るかもしれません。そう判断できれば、待機療法が選択されます。

 今回の男性は46歳。もし前立腺がんとすれば、若いケースです。若年性前立腺がんは、遺伝的にあるがんを受け継ぎやすい家族性腫瘍の可能性が。ほかのがんでもそうですが、家族性腫瘍は悪性度が高く、欧米では予防的前立腺全摘が行われることもあります。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

関連記事