下剤と食物繊維は大間違い 便秘治療はタイプ分類がカギ

下剤が効かないなら専門病院へ
下剤が効かないなら専門病院へ(C)日刊ゲンダイ

 今年10月、国内初の「慢性便秘症診療ガイドライン」が発刊された。便秘治療はどう変わるのか?

「非常に大きな一歩」

 こう言うのは、全国から便秘に悩む患者が集まる「指扇病院」排便機能センター長の味村俊樹医師だ。味村医師は、ガイドライン作成のメンバーでもある。

「さまざまな下剤が登場し、数年前と比べると治療の選択肢が増えている。ところが便秘の基礎知識にすら乏しい医師が多く、適切な治療が行われているとは言い難かった。ガイドラインによって、それが変わることが期待されます」

 私たちが知っておきたいのは、便秘のタイプだ(囲み参照)。ひと言に便秘といっても細かくタイプが分かれ、治療法は異なる。大腸通過正常型では食物繊維の摂取が有効だが、遅延型ではむしろ症状を悪化させる、というようにだ。

 今回のガイドラインにはアルゴリズム(診断・治療の流れ)が記載されていないのがネックだが、タイプの記載はあるので、今までのような「便秘といえば全て下剤と食物繊維」といった状況は変わると考えられる。

 大腸通過正常型と遅延型の見極めは「大腸通過時間検査」という専門の検査が必要だが、研究として行う一部の医療機関でしか受けられない。

「ただ、下剤による治療で通過正常型か遅延型かの判断は、ある程度つきます」

■下剤が効かなければ大腸通過時間検査を

 大腸を刺激せず排便しやすい環境をつくる非刺激性下剤を単剤または複数剤組み合わせる。非刺激性下剤が適量に達するまでは、大腸を刺激する刺激性下剤をレスキュー的に用いる場合もある。

「下剤治療によって排便回数減少型は、通過正常型でも遅延型でも便が軟らかくなる。しかし、排便回数がほとんど増えなければ食物繊維摂取量が少ない通過正常型が考えられます。遅延型であれば、適切な下剤の使用でバナナ状の便が週3回以上出るようになります」

 味村医師の場合、通過正常型の患者が若い世代であれば、今後の生活習慣病の予防も含め、日々の食生活で食物繊維摂取量を増やす栄養指導を行う。高齢者では、食物繊維に代わる薬を処方。

 食物繊維摂取量の正常化や下剤が効くなら、つまりは排便回数減少型の通過正常型か遅延型なら、開業医や一般の消化器内科でも便秘が改善できる可能性が高い。しかし、下剤が効かなければ、現段階では、指扇病院をはじめとする便秘治療を専門とする医療機関を受診したほうがいい。

「便秘ではないのに腹痛がある機能性腹痛症、最大限の下剤を投与しても十分な効果が得られず手術の検討が必要な結腸無力症などは、大腸通過時間検査が必須であることが理由のひとつです」

 機能性便排出障害(排便回数困難型のひとつ)に効果的なバイオフィードバック療法も、実施する医療機関が増えているとはいえ、どこでも受けられるわけではないことも理由だ。

■今後の課題

 味村医師は、「今回のガイドラインで我が国の便秘診療が大きな一歩を踏み出したのは間違いないが、ガイドラインで推奨している診療を保険診療として国民全体に提供するには、さらに歩みを進める必要がある」と指摘。なぜなら、便秘診療の重要な「武器」となる検査、治療のいくつかは、まだ保険適用が得られていないからだ。たとえば、大腸通過時間検査、食物繊維摂取のための栄養指導などになる。

■便秘のタイプ

【排便回数減少型】
・排便回数が週3回未満
・さらに、食物繊維摂取量の少なさが原因の「大腸通過正常型」と、大腸の機能低下による「大腸通過遅延型」に分類

【排便回数困難型】
・排便回数は正常だが、排便が困難
・さらに、直腸や肛門に異常がなく、便が硬いことが原因のタイプと、直腸や肛門に異常があるために、軟便でも排便困難を生じる「便排出障害」に分類
・便排出障害は、直腸瘤(りゅう)など器質的な問題が原因の「器質性便排出障害」と、いきむと肛門が締まったり腹圧を十分に加えられない「機能性便排出障害」に分類

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