中高年にとっての虫歯

唾液の質・量が変わる 歯を失う人の転機は「50歳」から

八重洲歯科クリニックの木村陽介院長
八重洲歯科クリニックの木村陽介院長(C)日刊ゲンダイ

 厚労省の「平成28年歯科疾患実態調査」によると、歯を失う人の割合は30歳以降、5歳ごとに10%ずつアップするが、50歳からはその割合が20%と大きくなる。

 一方、虫歯治療をした人の中で、両側2本の歯を支柱にして、欠損した歯の代わりにクラウン(人工歯冠)をかぶせるブリッジ処置をした人の割合は45~49歳で4.8%。50~54歳ではそれが7.9%と跳ね上がり、55~59歳12%、60~64歳13.9%、65~69歳15.9%と増えていく。

 この2つの数字から、虫歯で歯を失う人の転機が「50歳」であることがわかる。なぜか?

 自由診療歯科医師で八重洲歯科クリニックの木村陽介院長が言う。

「中高年に虫歯が増える原因は歯ぐきがやせてエナメル質より軟らかい象牙質の歯根部が露出すること、詰め物などが多く治療した歯の内部に虫歯が広がることなどが理由です。ただ、忘れてならないのは唾液の量と質の変化です。50代から目立って変わり、口腔内が虫歯菌が活動しやすい環境に変わるのです」

 それを証明する研究はたくさんある。秋田県角館町の31~80歳の住民250人を31歳から10歳刻みで5群に分けて10分間、安静時総唾液分泌量を測定した研究がそのひとつだ。結果、男性は51歳以降、女性は61歳以降、目立って唾液量が減った。最近のドライマウスの患者数も50代以降急激に増える傾向にある。

「加齢で唾液の質も変わってきます。ひと口に唾液といっても3種類あります。サラサラとネバネバ、その両方を合わせた混合性の唾液です。健康な人はこの3種類がバランスよく分泌されています」

 その割合は安静時と食事時では変化する。安静時では耳下腺からサラサラの唾液が全体の20%、混合性の唾液が顎下腺からが75%、舌下腺から5%分泌されている。

「しかし、食べ物を咀嚼したり、食べ物により味覚や嗅覚が刺激されると耳下腺からの分泌量が大きく増えて、全体の50%以上を占めます。ところが、年とともに耳下腺実質残存率も低下するため、安静時・食事時にかかわらず耳下腺から分泌されるサラサラの唾液量の割合が減り、口腔内全体に粘り気のある唾液が増えてくるのです」

 サラサラの唾液が減り、粘り気のある唾液が増えると口腔内の虫歯菌が糖分を分解して産出する酸を中和する力が弱くなる。その結果、虫歯菌が繁殖してしまう。

「唾液の質と量の変化が中高年の虫歯が増えていく一因なのです」

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