独白 愉快な“病人”たち

子宮頸がん克服 ドラマー小林香織さんが説く検診の重要性

子宮全摘手術を受けた小林香織さん
子宮全摘手術を受けた小林香織さん(C)日刊ゲンダイ

 それまで「定期的にがん検診をしましょう」というCMを見ても、どことなく他人事だったんです。でも、不正出血があったりして「病院に行こうかな」と思っていたタイミングで区のがん検診のクーポンが届き、受診してみようと思いました。2011年5月のことです。

 細胞診前の内診では、「ちょっと炎症がありますね」と言われ、抗菌薬を処方されました。「悪い病気ではなかったんだ」とホッとしました。でも、数週間後に再検査の通知が届き、区内の総合病院を受診したところ、「子宮頚がん」と診断されたのです。

 先生は「円錐切除術で2週間ほどの入院になるでしょう」とおっしゃいました。しかし、子宮頚がんという病気についても、円錐切除術についても、何も分からない状態で……。

 子宮頚がんは、子宮の入り口、頚部に出来るがんで、ほとんどの場合、ヒトパピローマウイルスというウイルスによって発症します。性交渉によって男性から感染するのですが、性交渉を経験した約80%の女性が一度は感染するといわれているそうです。そのうち90%は自然に消滅し、子宮頚がんにまで進行するのはごく一部なのですが、それでも多くの女性が罹患する可能性があるのです。

 そして、私がこの段階で先生から言われた円錐切除術は、がんのある子宮頚部を1~2センチの奥行きで円錐状に切り取る治療法です。子宮の多くを残すことができ、手術時間も30分前後と負担も軽く、妊娠も可能です。私たち夫婦は妊娠を強くは希望していませんでしたが、軽い治療法になると聞いて安心しました。

 こうした一連の経緯を両親に話したところ、「がんの専門医にもう一度診てもらいなさい」と強く勧められました。日頃、私に強く何かを指示することのない両親がそう言うのならと、がん専門医を訪ねたのです。

 特に不安に思うこともなく受診したのですが、先生から「これは子宮を全摘しなければいけない」と告げられました。がんは子宮頚部にとどまっているものの、大きさが3センチほどありました。私の症状だと、広汎子宮全摘手術(子宮と膣の一部を含め骨盤壁近くから広い範囲で切除する)と、骨盤リンパ節郭清(がんの周辺にあるリンパ節を取り除く)を行う必要があるとのことでした。

 きちんと説明を聞いて、覚悟はできました。ただ、ライブを控えていたので「手術を1カ月延期できませんか?」と先生に相談してみたんです。すると、「そんなことをしたら、どんどん悪化してしまいますよ」と言われ、いま何を優先すべきかを考えました。

■味覚の変化や排尿障害も

 手術は6時間50分の長丁場。生まれて初めての全身麻酔でした。術後、名前を呼ばれたときは傷口が痛く、とにかく寒くて震えが止まりません。病室に残った父に手を握ってもらいました。無性に人肌が恋しくて、皮膚のぬくもりが欲しかったことを覚えています。

 手術を受け、これで無事治療も終わりと思っていたのですが、わずかにリンパ節に転移が認められ、抗がん剤治療をすることになりました。予想していなかったことだったので、この先どうなるのかと不安が募りました。

 抗がん剤治療は1クール2投与で、1投与目が入院、2投与目が通院。毎月1クールを5カ月かけて行いました。ひどい吐き気と倦怠感に襲われて、電車で通院されている方もいると聞きましたが、とてもじゃないけれど自分には無理だと思いました。

 あの時期は、味覚がガラリと変わり、炭酸飲料や甘いミルクティーばかり飲んで、脂っこいものや果物が大好きになりました。夫の両親が送ってくれる果物がもう、おいしくて。

 加えて、手術でリンパ節を一部切除しているので排尿障害が起こりました。自力でもよおすことがないので、ある程度の時間がたったらとにかくトイレに行くんです。最初は排尿を促す器具を使いました。

 それでも、徐々に体調は回復して、手術の翌年の春には復帰できました。去年、先生から寛解のお見立てもいただき、いまはとても元気です。

 そんな中、私がいま伝えたいのは、子宮頚がんという病を正しく理解して欲しいということ。子宮頚がんは「遊んでいる女性がかかる病気」などと、まったく根拠のない揶揄を受けることもありますが、そんなことはありません。ほかのがん同様、早期発見がとても大事です。

 これからも経験者の立場から、子宮頚がん検診の啓蒙を呼び掛けていきたいと思います。

▽こばやし・かおり 1978年、東京生まれ。12歳でドラムを始め、相川七瀬、E-girls、及川光博ら、数々のツアーやレコーディングに参加。2006年から現在まで、TM NETWORKの宇都宮隆が立ち上げたバンド「U_WAVE」に参加している。また、ミュージカル「CABARET」「シャウト!」に演奏出演も。18年1月13日にはバースデーライブ「昭和52年組! 二度目の成人式」(Shisuideux/東京・大塚)に出演予定。

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