末期がんからの生還者たち

慢性骨髄性白血病<1>「もっと出世してやると思っていた矢先…」

久田邦博さん
久田邦博さん(提供写真)

 大手医薬品メーカーに勤務し、薬剤師の資格も持つ久田邦博さん(54歳=愛知県名古屋市在)は転勤族である。

 17年前の2001年春、転勤した勤務先から近い神奈川県川崎市内の総合病院で高血圧のため治療した。

 会社では「MR」(医薬品情報担当=医薬品メーカーの営業担当者)に所属し、職務も順調。課長職に昇進したばかりであった。

「38歳でした。よし、もっと出世してやると思っていた矢先でしたね。病院から、会社に『久田さん、すぐ病院に戻ってほしい』と電話連絡があったのです」

 再び病院に行くと、先ほど診察をしてくれた医師が、淡々とした口調で診断結果を告げた。

「白血球の数値が異常です。2万8000(個/マイクロリットル)もありました。血液内科医が常勤している横浜の総合病院を紹介しますから、すぐに絶対受診してくださいね。絶対ですよ」

 薬剤師の資格を持つ久田さんは、白血球が2万8000という数値が何を物語るのかは想像できる。ある病名が頭の中をかすめた。

 外部から体内に侵入した細菌やウイルスなどの異物を排除する白血球の数量は、正常基準下限値が3000~4000、正常基準上限値は8000~1万1000(日本検査血液学会)である。年齢や日々の体調などで変わり、個人差もあるが、久田さんの白血球数は正常値をはるかに超えていた。

 翌日、久田さんは紹介された横浜の総合病院(血液内科)を訪ねた。受付で問診票に記入していると、ひとつの項目に目が留まる。

「告知しても大丈夫ですか?」

 久田さんは丸印を付けて診察室に入った。

 問診、血液検査の後、担当医師がこう切り出す。

「病名はなんだと思っていますか?」

 久田さんは、自分が前日ネット検索で見つけた最悪の病名を否定して欲しくて、「慢性骨髄性白血病ではないかと思っています」とぼそっとつぶやいた。

「たぶん、そうでしょう」 医師の返事に迷いは感じられなかった。

 骨髄で血液をつくる過程で、白血球が何らかの遺伝子異常を起こし、がん化して増殖する「慢性骨髄性白血病」は1年間に100万人中7~10人の割合で発症するという当時は治療が難解な血液のがんだ。

 その後の精密検査から2週間ほど経て、久田さんは正式に「慢性骨髄性白血病」と医師から告知された。

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