末期がんからの生還者たち

S状結腸がん<2>「難しい手術です。ダメかも知れませんが開けてみましょう」

岡田隆さん
岡田隆さん(C)日刊ゲンダイ

 愛知県豊田市に住む岡田隆さん(60歳)は41歳のとき、大腸の手術を受けるために、「虎の門病院」(東京・港区)に入院した。紹介状を添えての外来で、「すぐに入院の手続きを取ってください」と指示を受けた。

 岡田さんは金融機関に入社し、東京や千葉の支店を回っていたサラリーマン。働き盛りである。 

「入院日の前日は、好物の焼き肉を腹いっぱい食べ、たばこも思い切り吸いました。それまでたばこは1日60本吸う愛煙家、酒や食事もお構いなく好きなだけ腹に入れていたのです。これでそのまま、退院できないかも知れないと思いながら、覚悟を決め、最後の一本を胸深く吸って病院に入りました」  

 入院してすぐに精密検査(注腸造影検査、大腸内視鏡検査、CT、超音波検査等)を受け直した。診断は「S状結腸がん、ステージⅢb」である。

 治療は手術だった。手術に要した時間は5時間弱で、患部を約40センチ、リンパ節も切除した。術後、夫人、母親、兄弟が肩を寄せ合う診察室で、担当医からこう説明を受ける。

「大腸がんはかなり進行しており、遠隔のリンパ節転移も所見されました。今後、他臓器に転移する可能性が極めて高いようです」

■手術代とサプリで200万円

 検査、手術等で、入院期間は3週間ほどになっていた。担当医の予見は的中した。しかも、転移の時期も速かった。大腸がんの手術からおよそ半年後の2000年5月、定例のCT検査で肝臓から3カ所に及ぶ悪性腫瘍の転移が見つかった。 

「もうこんなに早く転移するなんてショックで愕然としましたね。それに担当医の説明では、転移が肝臓に3カ所ですから、手術ができたとしても、場所が離れており、3回手術をするのと同様の時間がかかると言われました。私はこのとき、これで最後かもとの思いで手術室に向かったのを、昨日のことのように記憶しております」 

 担当医師は岡田夫人に、「難しい手術です。ダメかもしれませんが開いてみましょう」と告げられていた。岡田さんも、「私はもうこれで終わり」と覚悟した。 

 9時間に及ぶ手術は成功したが、同時に胆嚢も切除した。さらに、その後の抗がん剤治療のために、入院中に左鎖骨の下位にカテーテルを通すポートの埋め込み手術も受けた。 

 大腸がんに続く肝臓がんの手術。でも岡田さんの治療苦闘は、これで終わりを迎えたわけでない。翌年の9月、やはりCT検査で、今度は右肺に3センチ大の腫瘍が見つかった。 

 約3時間の手術を受けた。これも成功するが、大腸、肝臓、肺の手術で、個人負担(3割)及びサプリ等の出費は約200万円だった。 

 こうした重なる手術の後、定期的な検査や抗がん剤治療が開始された。

 まさに岡田さんは、がんとの激闘を息つく暇もなく続けることになる。

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