末期がんからの生還者たち

すい臓がん<1>「患者の列を飛ばして診察室に呼ばれ…」

池田実さん(提供写真)
池田実さん(提供写真)

 千葉県船橋市内に住む池田実さん(74歳)は大学卒業後、大手電機メーカー系のIT会社に入社。2001年に退職し、知人たちと、ITベンチャー会社を立ち上げた。

 登山、マラソン、テニスなど多彩な趣味を持つ池田さんだが、とくに学生時代から50年のキャリアを持つスキーはセミプロ級である。

 典型的なアウトドア派で、強健な体力が自慢の池田さんは、68歳の夏まで、病院とはほとんど無縁という快適な生活を送ってきた。

 ところが、2012年夏、体にかつてない異変を感じたという。

「胃腸あたりに、これまで経験のないような不快感を覚えるようになりました。ときどき下痢もあったのです」

 最初は体調不良の原因を、「会社経営で苦労しているストレスが原因かな」と思っていた。

 不快感が続いている池田さんを心配した妻が、「きょう私も病院に行くから一緒に診てもらいましょうよ」と誘った。

■亡くなった義兄の笑顔が浮かんだ

 妻が通院していた病院は、自宅から徒歩5分の「千葉徳洲会病院」である。池田さんは内科を訪ね、問診、レントゲン検査、血液検査、CT画像検査などを受診。1週間後、検査結果を聞きに再び病院を訪ねた。

 内科の診察室前には、大勢の患者さんが診察の順番を待っていた。1時間ほど待ったが、それでもまだ順番が来ない。池田さんは看護師に、「すみません。きょうは時間がありませんので、また来ます」と告げた。すると看護師が医師に確認のため診察室に入って間もなく、10人ほどが列をなす患者さんたちをすっ飛ばして、「診察室にお入りください」と声がかかった。

 あまりの早い対応に、不安を抱いた池田さんに、診察室でCTの画像モニターをにらんでいた女性医師がこう告げた。

「すい臓がんですね。病期は相当に進行しています。手術について、院長がどのように判断するかわかりませんが、とにかくきょうから入院してください」

 このとき、詳しい病期の説明はなかった。ただ「すい臓がん」と告知されたことだけが頭に残った。

 入院を1日だけ延ばしてもらった池田さんは、待合室で待つ妻に、「すい臓がん」であることを知らせた。妻は言葉なく、深いため息を漏らしたという。

 重い足取りで病院の玄関を出ると、53歳のとき、すい臓がんで他界した義兄の笑顔が浮かんだ。その足で会社を訪ね、社員に病名と、あすからの入院を伝える。

 唐突な「がん告知」にショックを受け、今後の治療や5年生存率など考えているゆとりがなかった。帰宅して入院の準備など慌ただしく過ごし、翌日に入院した。

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