末期がんからの生還者たち

肺がん<1>自宅で家族会議を3時間 長男の言葉に涙が出た

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 夫婦合わせて、月々、約13万円の年金生活。家賃、電気、ガス、水道、電話、NHK等の料金を支払うと、旅行や外食などの娯楽はもとより、食生活にもほとんどゆとりがない。

 1円でも安い卵販売のバーゲン情報に、自転車で1駅分の距離を往復して汗を流す毎日。もうこれ以上、生活費を切り詰める方法がなかった。

 預金はどうか。いつか迎えに来る葬儀代として蓄えている50万円程度である。

 東京・荒川区内の公営住宅に住む橋本好恵さん(73歳、仮名)は、こうした質素な生活を送る中で昨年暮れ、「肺がん・ステージⅢa」の告知を受けた。

 肺がんの病期、ステージⅢは、リンパ節に転移し、腫瘍が肺の随所に散らばっている進行がん。もはや外科的手術は排除され、治療は化学療法と放射線という併用療法が中心になる。

 手術を排除した化学療法と放射線療法の併用治療による「5年生存率」は、15~20%(国立がん研究センター)。

「もちろん余命については、考えるだけで涙が出てきます。それとこれから、いったい治療費がいくらかかるのかという不安が頭から消えません。どこからその金を工面したらいいのでしょうか」

 高額な治療費の支払いは、がん患者に共通した悩みである。年金生活者の橋本さんも例外ではなかった。

 真っ先に親族たちの顔が浮かぶ。しかし、親族たちとの間に深い事情があり、プライドもあって「金を貸してくれ」とは言いにくい。

■「俺たちの生活も大変だけど…」

 自宅で家族会議を開いた。橋本夫婦には3人の子どもがいる。長男と長女、それに次女。しかし3人とも余裕がある生活ではない。そのうえ長女や次女には、まだ大学や高校に通学している育ち盛りの子どもたちがいた。

 しんみりとした家族会議が3時間に及んでも、結論が出ない。最後になって、間もなく50歳となるトラック運転手の長男が話をまとめた。

 事前にネットで「肺がん」にかかる治療費を検索し、知識を得ていたようで、こう言ったという。

「母さんはがん保険も入っていなかった。だいたい、肺がんの治療費総額は平均200万円ぐらいで、高額療養費制度を利用しても、毎月10万円前後の治療費になる。俺たちも生活が大変だけど、きょうだい3人で、毎月1人当たり、2万円の援助で我慢してくれないか……」

 橋本さんは、子どもたちの意見にただ沈黙する以外にない。月総額6万円の援助が決まった。

 それでも高額な治療費の支払いに、橋本さんの不安が消えたわけではない。年が明けて2018年1月、国立がん研究センターでの治療が開始された。

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