マウスピースで歯周病を治す 注目「3DS除菌療法」とは

歯周病菌は全身疾患の原因に
歯周病菌は全身疾患の原因に(C)日刊ゲンダイ

 歯周病菌など口腔内の病原菌は糖尿病や心筋梗塞など全身疾患の原因にもなることが明らかになっている。そこで今注目を集めているのが「3DS除菌療法」だ。

■重症患者もOK

 虫歯や歯周病の原因菌(悪玉菌)は、歯や歯茎に集中して繁殖する。そこで、患者の歯形に合わせて作製した密封性の高いマウスピースを装着し、その中に殺菌効果の高い薬剤を注入することで、悪玉菌のみを的確に減らす方法が「3DS(Dental Drug Delivery System)」だ。いわば、薬剤を効率よく患部へ輸送することで、その効果を最大限に発揮させるシステムである。

「重症の歯周病や、高齢などで免疫力が低下し治療効果がなかなか出にくい場合でも、3DSの導入によって従来より短期間で治療成績が上がります」

 こう話すのは、5年前から3DSを取り入れている片平歯科クリニック(東京・渋谷区)の片平治人院長。虫歯のリスクが高く、「治療↓再発↓再治療」を繰り返していた患者が、再発頻度が減り、治療のためではなく予防で来院するように変わっていくケースも珍しくないという。

 なぜ、3DSがここまで有効なのか? それは、歯の表面に繁殖する悪玉菌(バイオフィルム)と関係する。バイオフィルムはその名の通り、細菌自身を膜で覆い、保護している。

 するとどんなに強力な薬剤であっても、バイオフィルムにガードされ、薬剤の効果が悪玉菌まで行き届かない。つまり、悪玉菌がバイオフィルムに守られて生き残る。

 このような状況で、もし強いうがい薬でやみくもに口をすすいでしまうと、頬などの粘膜に生息する善玉菌が殺菌され、口腔内の善玉菌と悪玉菌のバランスが崩れてしまうリスクがある。

 このような背景から、バイオフィルムに対する手だてとして、鶴見大学歯学部の花田信弘教授が1999年、国立予防衛生研究所(現・国立感染症研究所)時代に3DSを開発した。

「3DSは治療と予防の両方に使えます」(片平院長)

■3カ月で対象悪玉菌が0%近くに

 片平歯科での治療の流れはこうだ。最初に、細菌検査で唾液中の悪玉菌の比率を調べ、リスクを判定する。

 3DSが適用となったらまず、歯科衛生士による徹底した口腔内クリーニングで、機械的にバイオフィルムを取り除く。次に、薬剤の入ったマウスピースを5分間装着。さらに自宅で、7~10日間、自宅用薬剤を用いたマウスピースを装着する。自宅用薬剤は、クリニックで使うものとは異なり、市販の歯磨き剤にも使われている低濃度で安全性の高いものだ。

 その後の来院時に再度、口腔内クリーニングによる機械的な除菌と、マウスピースによる高濃度薬剤での除菌を行う。治療としての3DSはここで終わりだが、次のステップとして、バクテリアセラピーという善玉菌のタブレットを1カ月間摂取してもらい、口の中の細菌バランスの改善を行う。

 2カ月後に再度細菌検査を行い、悪玉菌がリスクのない安全域にまで減少しているか確認する。たいていの場合、対象悪玉菌は0%近くまで減少する。まれではあるが、効果が不十分な場合は再度3DSを行う。

 口腔内の状態が安定した後は、必要に応じ自宅での3DSを行いながら、定期的にクリニックでの徹底した口腔内クリーニングを継続。予防管理を行うことが肝要だ。

 間違ってはいけないのは、「3DSだけすれば歯周病が治り、全身疾患の予防になる」のではないという点だ。最初の口腔内クリーニングが非常に重要だ。

「3DSは椅子取りゲームのようなもの。口腔内クリーニングと3DSの薬剤で口腔内の悪玉菌を排除し、善玉菌に置き換えていくのです。善玉菌の“椅子”を確保し続けるには、治療による3DSで悪玉菌減少後も、定期的な歯科検診と口腔ケアが不可欠です」(片平院長)

 保険適用外。片平歯科クリニックでは、3DSを含めた一連の治療を8万円(税別)で行っている。

※副作用は特になく、予防的に毎日3DSを装着する人もいる。ただし、新しい治療法のため、長期的に見た安全性の報告はない。

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