Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

伊藤忠がヒント がん治療と仕事の両立はコーディネーターが重要

異常があればCTなどで精密検査
異常があればCTなどで精密検査(C)日刊ゲンダイ

 がんは、3人に1人が65歳以下で発症します。働き盛りでがんを患う人が少なくありません。仕事と治療の両立は、働き方改革でも目玉項目のひとつです。そこで、前回はサントリーHDの取り組みを紹介しました。がんで高度先進医療を受けた社員の治療費を、最大500万円まで会社が負担するというものです。

 がん社会の今、こうした企業の支援体制は不可欠でしょう。厚労省は2009年に「がん対策推進企業アクション」を設立。がん検診の推進や就労支援などを進めています。

 その活動に賛同するパートナー企業は2575社で、従業員は約674万人です。

 私は、その事務局を支援するアドバイザー会議の議長を務めていて、先月28日には先進的な企業の取り組みを表彰するセミナーが開かれました。その中でも、厚労大臣賞を受賞した伊藤忠商事の取り組みが際立っています。紹介しましょう。

 2つある柱のひとつは、がんの予防と早期発見、治療のサポートです。国立がん研究センターと提携し、40歳以上の社員は全員、5年ごとにがんの専門検診を無料で受けられ、がんが見つかればすぐに治療を開始。会社が保険料を負担して、高度先進医療保険に加入するため、高額な治療費も会社がカバーします。

 仕事との両立で重要なのは2つ目。各部門ごとに配置された両立支援コーディネーターです。コーディネーターは各部門ごとの人事総務担当者が兼務し、がんになった社員と主治医の間を取り持ち、社内の保健師や産業医、社員の上司や同僚、部下らとやりとりしながら、具体的な支援策や社内の調整をしてくれるのです。

 大企業ならではの手厚さですが、中小企業も頑張っています。その典型が、検診部門のパートナー賞を受賞したヤスマです。創業71年の香辛料メーカーで、がん検診の受診率は100%。その結果は、嘱託医がチェックし、精密検査が必要なケースは総務から社員に伝えられ、必ず精密検査を受ける仕組みが整えられています。これが素晴らしい。

 たとえ、がん検診の受診率がよくても、精密検査を受けなければ、早期発見・早期治療のチャンスが失われる恐れがあります。でも、ヤスマのような精密検査への後押しは効果的。ヤスマは、5年以上前からがん検診受診率と精密検査受診率の100%を続けているそうです。

 ヤスマは、東北から季節労働で半年ほど住み込みで働く人が会社を支えるケースが多かったものの、食生活の乱れなどから体調を崩しがちだったといいます。

 その教訓から、会社が社員の健康に配慮する必要性を感じ、今のような仕組み作りにつながったようです。

 データから、がん検診の受診率も、就労支援も大企業に有利な数字が並ぶのは事実ですが、中小企業もトップの意識で変わる可能性は十分あります。会社のサポートが不十分なら、会社に働きかけて、がん企業アクションに参加して情報を入手するのもよいでしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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