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70歳過ぎの軽症糖尿病にクスリは必要ないのか?

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 国民栄養調査は、高齢になって初めて糖尿病と診断されたり疑われたりする人が増加している現状を明らかにしました。

 しかし、高齢になって初めて軽い糖尿病といわれたところで、合併症が出てくるのは10年、20年後ですから、糖尿病と診断されたからといって、それほど気にしなくてもよいことがわかります。

 実際に高齢者の糖尿病の治療基準がどうなっているのかを見てみましょう。日本の糖尿病ガイドラインでは、日常生活に制限がなく認知機能にも異常のない糖尿病患者に関して、低血糖の危険が高い薬を使わない場合にはHbA1cで7%未満を目標に治療しますが、薬を使用する場合には65歳以上75歳未満では7.5%未満、75歳以上では8.0%未満を目標に治療するとなっています。

 さらに薬の治療をする場合には75歳未満では6.5%未満にはしないように、75歳以上では7.0%未満にしないように治療すべきとあります。

 国民栄養調査で「糖尿病を強く疑われる者」はHbA1cが6.5%以上か薬の治療を受けているものですから、この調査で薬なしでHbA1cが7.0%未満だった75歳以上の人はすでに治療の目標は達成されており、それが維持されればいいわけです。逆に薬を飲んで7.0%未満の75歳以上の人は、治療が厳しすぎて低血糖の危険が増しており、薬はやめてHbA1cが7.5%くらいのほうがいいかもしれません。

 つまり70歳を過ぎて初めて糖尿病を指摘された軽症の人たちは、少なくとも薬の治療を始めないほうが良いのです。

名郷直樹

名郷直樹

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

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