心機一転のはずが…転居で“引っ越し不調”はこうして防ぐ

引越し先のアレルゲンで発症
引越し先のアレルゲンで発症(提供写真)

 新生活をスタートさせる人が多い3月後半~4月前半は引っ越しのピークを迎える。期待に胸を膨らませている人がほとんどだろうが、転居してから思わぬ体調不良に見舞われるケースもある。“引っ越し不調”に用心したい。

■引っ越し先のアレルゲンで発症

 引っ越し先で暮らし始めたら、ひどく咳き込むことが増えたり、鼻水、くしゃみ、のどの痛みが続くようになった。そんな人はダニやホコリ、カビによるアレルギー性疾患の可能性がある。「水谷内科呼吸器科クリニック」(東京・練馬区)の水谷清二院長は言う。

「いまの住宅は気密性が高くなっています。エアコンで冬も夏も室温が比較的安定しているうえ、加湿器などで湿度も適度にコントロールされているため、ダニやカビが繁殖しやすい環境です。引っ越し先の部屋がそれまで長い間、誰も住んでいなかったりすると、ダニやその死骸がたまっていたり、水回りや備え付けのエアコン内にダニやカビが繁殖しているケースもあります。引っ越し先がそうした『アレルゲン』と呼ばれるアレルギー反応を起こす原因になる物質が多い環境だと、アレルギー性疾患を発症するケースがあるのです」

 アレルギーは、体内にウイルスや細菌などの異物が入ってきたときに、それらを排除する免疫反応が過剰になって起こる。アレルゲンが最初に侵入した時点で、まずはIgE抗体がつくられ、マスト細胞などと結合する「感作」という状態になる。

「体内でそうした“準備”が整いアレルゲンが侵入したとしても、どの時点でアレルギー反応を起こすかは人によって違います。ただ、それまでは何ともなかったのに、アレルゲンが多い環境に移ったことがきっかけで発症する場合も少なくありません。ダニやホコリはアレルギーにとって大敵で、咳、くしゃみ、鼻水、鼻炎、喘息、アトピー性皮膚炎などさまざまな症状を引き起こします」(水谷氏)

 カビが原因でアレルギーを起こして夏型過敏性肺炎になる場合もある。6~8月に多いが、暖かくなる4月あたりから表れ始める。発熱や倦怠感などから始まって徐々に咳が激しくなり、進行すると肺線維症を併発して命を落とすこともある。

「夏型過敏性肺炎の場合はカビから離れることが重要で、住居を移す転地療養が効果的です。ダニやホコリが原因のアレルギー性疾患に悩んでいる人も、転居することで症状が治まる例が多く見られます。地方から東京に転勤してきてひどい咳に悩んでいた患者さんが、地方の実家に戻ったら治ったというケースもありました」(水谷氏)

■頭痛や腰痛、うつも…

 引っ越し先で、咳、くしゃみ、鼻水などがひどい場合、まずは1週間くらい知人宅やホテルで過ごしてみて症状が治まれば、何らかのアレルギーが疑われる。検査を受けて原因を突き止め、適切な治療を受けた方がいい。部屋を掃除したり湿度を下げる対策は限界があるので、思い切って転居するのが有効だ。

 引っ越しをきっかけに、頭痛、腰痛、肩凝り、倦怠感、いらいらする……といった不定愁訴や、うつ症状に見舞われる人もいる。

 企業の嘱託産業医としてビジネスマンのメンタル相談に乗っている奥田弘美氏(精神科医)が言う。 

「引っ越しは精神的にも身体的にも非常に大きなストレスがかかります。梱包や不要な物の処分、転居のための各手続き、関係先へのあいさつ回りなど、準備段階から非日常な状況が続き、新居に移ってからも荷ほどきや手続きが待っていて、準備のとき以上にハードです。夜の作業で睡眠不足が続いているケースも多い。しかし、たまっている疲労が新生活への期待感で隠されてしまい、自覚できていない人がほとんどです。そうした心と体の疲労がうつの大きな原因になるのです」

 転居先では生活環境も人間関係もガラリと変わる。それだけで大きなストレスになるが、さらに仕事などのトラブルが重なると一気にガクンとくる。

 引っ越しは、身体的な疲労に生活環境が変化するストレスが加わり、メンタル不調を招きやすい条件が揃ってしまうのだ。

「引っ越したら、まずは心も体も疲れているんだということを意識して、疲労を回復する日を必ず設定しましょう。当日と翌日は休みをもらい、一気に環境を整えようとするのではなく、まずは最低限の生活ができる程度にとどめておく。また、引っ越しから1カ月くらいは必要以上の予定は入れないようにして、のんびり過ごしてください」(奥田氏)

 引っ越しは不調と隣り合わせのリスクもあることを覚えておきたい。

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