「たかが、いびき」は大間違い 早期治療開始が重要な理由

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

「いびきは閉塞型睡眠時無呼吸症候群(SAS)のサインです。『いびきをかいてよく眠っている』のではなく、『よく眠れていない』サインと考えるべきでしょう」

 こう言うのは「睡眠総合ケアクリニック代々木」の柳原万里子医師。

 SASは、睡眠中に10秒以上呼吸が止まったり浅くなることで、睡眠を妨げ体に負担をかける病気。睡眠中に呼吸の通り道である上気道(喉)へ舌根や下顎が落ち込み、上気道が物理的に閉塞して生じる。

 いびきのほかに、「起床時の喉や口の渇き、頭痛」「日中の眠気や体のだるさ」「夜間頻尿や寝汗」などの自覚を伴うこともある。肥満はSASの主要なリスク因子であるが、日本人では明らかな肥満がなくともSASになることがあるため注意が必要だ。

「SASを放置すると、日常生活、社会生活へ悪影響を及ぼし、生活習慣病のリスクが増加します」

 具体的には、日中の眠気や集中力の低下による生産効率の低下。交通事故及び産業事故の増加。加えて、高血圧や糖尿病、動脈硬化にまつわる脳卒中や心筋梗塞、狭心症のリスクも高まる。

■精密検査で総合的に判断

 さらには、睡眠中の呼吸停止に伴って頻回する酸素不足が認知症のリスクを上げるとの懸念もささやかれているという。

 早めの診断・治療が肝要だ。最近では、スマートフォンの睡眠アプリなどでいびきの疑いに気付いて受診する人もいるとのことだ。

 受診後のSASの検査の流れは次の通り。まずは自宅で簡易検査を行い、睡眠中の酸素不足や脈拍の変動、いびきや呼吸の状態などをおおまかに評価する。これでSASの疑いが強いとなれば、精密検査の「終夜睡眠ポリグラフ検査」を1泊入院で行う。「本当にSASがあるのか」「治療が必要なレベルなのか」「どのような治療が適しているのか」について、重症度、体位、睡眠深度の影響などを含め、総合的に診断を受ける。

 治療は、「原因治療」と「対症療法」がある。原因治療としては、肥満がある場合は減量が必要。高度の扁桃肥大など上気道を狭くする病的な原因がある場合には手術が行われることもある。飲酒など、SASを増悪させる生活習慣の改善も必要だ。

 対症療法は、比較的軽症の場合にはマウスピース、比較的重症の場合にはCPAP(シーパップ)が行われることが多い。CPAPは風が吹いてくる機械のマスクを鼻に当てて眠る在宅治療。上気道へ風圧をかけることで、睡眠中に呼吸の通り道が閉塞しないように一晩中広げて支えておく治療。安全かつ確実に効果が得られるというメリットがある。

 しかし、過去にCPAPを受けたが苦しくて続けられなかったという人もいるだろう。

「この5~10年でCPAPの性能が改良され、昔の機種と比べ個人に合わせた繊細な対応ができるようになりました」

「睡眠総合ケアクリニック代々木」では、確実に睡眠中の呼吸を確保し、かつ違和感の少ない風圧設定やマスクの調整を、個々の患者に合わせてオーダーメードで行う「調整入院」を積極的に行っている。

 CPAPやマウスピースといった対症療法は、いかに毎日、しっかり使用できるかが治療効果の分かれ目。以前にCPAPを断念した方も、もう一度、治療再開について専門医療機関で相談してみてはいかがだろうか。

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