Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

内田春菊さんの告白が話題 直腸がんでも人工肛門を免れる

内田春菊さん
内田春菊さん(C)日刊ゲンダイ

「穴を開けた脇腹から体内で切り離した大腸を出しているんです。ここから排せつできるよう、人工肛門を装着しました」

「女性自身」のインタビューに答えているのは、漫画家の内田春菊さん(58)です。肛門のそばの直腸にがんができ、がんと一緒に肛門を切除したため、人工肛門を余儀なくされたといいます。

 大腸がんは、昨年の罹患数予測が14万9500人で、すべてのがんの中で最多。食の欧米化に伴って急増しています。内田さんの記事は示唆に富んでいますから、おさらいしましょう。

 3年前、「トイレでガスが出たときに、血が飛び散って、痔の治療で有名な病院に予約を取った」そうです。それでも、「座業なんで、痔がひどくなったのか」と、がんを疑っていない様子がみて取れます。

“痔主”の方が、「肛門からの出血や検便の便潜血は、痔のせい」と軽く考えて、大腸がんの発見が遅れることは少なくありません。私の近親者も、それで大腸がんで亡くなっています。48歳の若さでした。

“痔主”でも便潜血反応を無視せず、40歳以上なら大腸内視鏡検査を受けること。痔の専門医は、大腸内視鏡検査も行いますから、相談するといいでしょう。

「左右のお尻を強引につなぎ合わせたので、お尻の割れ目がなくなっちゃったんですよ」

 漫画家ならではの表現で、直腸がん切除による“悲劇”を伝えていますが、そんな“悲劇”を免れるための治療選択が2つ目です。

 まず自動吻合器の登場で、肛門の近くで腸と腸をつなぎ合わせる操作が安全に行えるようになったため、肛門を温存する技術が発達。さらに肛門近くのがんでも、肛門を締める肛門括約筋を残して腸と肛門を縫合することで、肛門温存が可能になっています。

 内田さんは、抗がん剤治療でがんを小さくしてから手術を受け、人工肛門にならずに済む可能性を探ったそうですが、残念な結果でした。

 実は、人工肛門を免れる方法は、ほかにもあります。放射線です。内田さんの治療に、放射線を加えるのです。化学放射線療法は、欧米ではポピュラーな治療法で、手術単独より優れた治療成績が報告されています。手術ができないくらい大きながんでも、化学放射線療法なら、肛門温存の可能性が高まります。

 がんの種類は違いますが、4年前に膀胱がんで亡くなった菅原文太さん(享年81)は、がんと診断された当初、膀胱全摘を勧められました。人工膀胱が嫌で、私の外来にセカンドオピニオンを求めに来られたのです。

 人工肛門も人工膀胱も、排便用に便をためる“袋”を身につけるのは、大きな苦痛でしょう。文太さんは放射線治療で膀胱温存に成功しましたが、必ずしも膀胱や肛門を温存する治療法が説明されるとは限りません。セカンドオピニオンは、放射線科医に求めること。それが第3のポイントです。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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