経口ステロイド薬が減量できる「重症喘息」新薬の実力

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 今月、3年ぶりの改訂版「喘息予防・管理ガイドライン2018」が発行される。その中には近年、保険適用された生物学的製剤が治療指針に加わっている。4月発売の最新薬について藤田保健衛生大学医学部呼吸器内科学Ⅱ講座・堀口高彦教授に聞いた。

 日本の喘息患者は約800万人。多くは適切な治療で症状をコントロールできるが、喘息の5~10%は重症喘息。高用量の吸入ステロイド薬、そのほかの長期管理薬、全身性ステロイド薬の治療が必要だったり、それらを使っても症状をコントロールできない。この重症患者の治療に用いられているのが、IgE抗体やサイトカインなどの炎症物質に直接的に作用する、従来の治療薬とは違う作用機序を持つ生物学的製剤だ。

 現在、喘息の生物学的製剤には、2009年発売の「オマリズマブ」、16年発売の「メポリズマブ」、そして今年4月発売の「ベンラリズマブ」の3種類がある。

「ベンラリズマブの特徴は、『直接的に』『速やかに』『気道まで』です。NK細胞を誘導し好酸球を直接的に除去。24時間以内に末梢血中の好酸球を除去し、3日以内に気道の血中好酸球を0%まで低下させ、喀痰中好酸球も12週後には0%まで低下させます」

 重症喘息の患者は、しばしば喘息の増悪を繰り返す。対処が遅れれば死に至る。この喘息増悪に大きく関係しているのが好酸球だ。重症喘息の半数以上が好酸球性喘息というデータもある。

「高用量吸入ステロイド薬を用いる血中好酸球数300以上の患者さんを対象に、ベンラリズマブ群とプラセボ(偽薬)群を比較した臨床試験では、年間喘息増悪率を83%有意に低下させました。また、4週間という早期で呼吸機能を改善し、その効果は48週まで維持されました」

 高用量吸入ステロイドを用いる血中好酸球数150以上の患者では、ベンラリズマブで症状のコントロールが可能になるのに反比例して、経口ステロイド薬の1日用量を75%減少できるという結果も出た。

 ベンラリズマブは、薬価収載前までに全国の病院で100例以上の患者に倫理的無償提供されたが、堀口教授の患者8例をはじめ、良好な結果が出ている。

「経口ステロイド薬は骨粗しょう症や骨折、筋力低下、白内障などさまざまな副作用があります。一方、ベンラリズマブは皮下注射で大きな有害事象がなく、注射部位の反応や軽度の頭痛程度。生物学的製剤のオマリズマブはすでに経口ステロイド薬より先に用いられるようになっており、ベンラリズマブも今後そうなっていくでしょう」

■基本治療が十分に行われていない人も

 なお、「新薬で症状コントロールが可能になれば、いつか薬をやめられるのか?」という疑問に対しては、現段階では「継続が基本」。

 重症喘息における治療の選択肢は増えてきた。

 一方で、喘息治療が適切に行われていない現状を問題視する専門医は多い。重症喘息患者のうち3割は一般内科医が診ており、生物学的製剤を提案されていない患者は非常に多い。また、重症喘息患者の9割は「軽症または中等症」とみなし、約6割が「(症状が)コントロールされた状態」と認識していることを示す意識調査もある。

「重症喘息とされている人の中には、間違った治療でコントロール不良の人もいます。喘息治療の基本は吸入ステロイド薬。しかし、吸入がきちんとできていない」

 新ガイドラインは、専門外の内科医も診断・治療を適切に行える構成を意識しているという。喘息で苦しむ人の減少が期待できる。

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