アルツハイマー病が治る? 日本人が世界初の研究結果発表

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 もしかしたら将来、アルツハイマー病やパーキンソン病が「治る」時代が来るかもしれない。画期的な研究結果を、東京慈恵医大医学部細菌学講座・杉本真也准教授らが国際学術誌「Communications Biology」に発表した。

 世界初の発見だ。今回の研究発表は、アルツハイマー病やパーキンソン病などとの関連も指摘されている、ある物質が産生されるのを制御する仕組みを解明したもの。

「主なキーワードは、バイオフィルム、分子シャペロン、アミロイド線維です」(杉本准教授=以下同)

【バイオフィルム】

 簡単にいえば、生体や人工物を覆う膜。微生物が生体などの表面に付着し、タンパク質、多糖類、核酸などでできた膜状の微生物の集合体(バイオフィルム)を作る。

「すると、中で菌が増殖し炎症が起こっても、抗菌剤や免疫機能が効かず、感染症治療の難治化や慢性化を招きます」

【分子シャペロン】

 シャペロンとは、フランス語で“社交界デビューする若い貴婦人の世話人”の意味。

「体内で作られたばかりのタンパク質はヒモ状で、“折り畳まれて”特徴的な立体構造になります。ところが“折り畳み”がうまくいかなかったり、熱で変性するケースがあります。折り畳みの促進、熱による変性の抑制などをするのが、“世話人”の分子シャペロンです」

【アミロイド線維】

 タンパク質が集合し、線維状に固まったもの。アルツハイマー病やパーキンソン病といった重篤な神経の病気と深く関係している。

「アミロイド線維はタンパク質の病的な構造というのが従来の認識でしたが、機能を持つアミロイド線維があることが明らかになっています」

■難治・慢性化した感染症を治す

【研究内容】

 バイオフィルムの形成メカニズムがわかり薬で制御できれば、難治化・慢性化した感染症を治療できるのでは? 研究目的のひとつがこれだ。

 目を付けたのが、複数ある分子シャペロンのうち、DnaK。そして、バイオフィルム形成機能があり、大腸菌やサルモネラなどが菌の外側に作るアミロイド線維、Curli(カーリー)。

「カーリーの産生にDnaKが必須であることは過去の研究でわかっていましたが、今回初めて判明したのは、『DnaKが、カーリーの遺伝子発現に必須な2つのタンパク質を“世話(分子シャペロン)”する』『DnaKが、細胞質でタンパク質(カーリーを形作るのに必要)が凝集するのを防ぎながら、細胞の外に正しく運ばれるのを助け、カーリーが産生される』ということです」

 つまり、DnaKの働きを抑制すれば、大腸菌はバイオフィルム形成などの機能を持つカーリーを産生できない。では、何を用いればよいのか? それが国際学術誌「Scientific Reports」に同じタイミングで発表した研究だ。

「まず、ポリフェノールの一種ミリセチンが、DnaKの働きを抑制し、カーリーの産生を阻害すること。さらに、カテキン(EGCG)がミリセチンより約10倍高い活性を持ち、より効率的にカーリーの産生を抑制することがわかりました」

 カーリーの産生が抑制され、バイオフィルムが作られなければ、前述の通り、難治化・慢性化する感染症を予防できる。アミロイド線維が深く関係しているアルツハイマー病、パーキンソン病なども治せるかもしれない。実際の治療現場で応用できる日が待ち遠しい。

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