独白 愉快な“病人”たち

皮膚筋炎で難病認定 山田雨月さんが語る“正直な気持ち”

山田雨月さん
山田雨月さん(C)日刊ゲンダイ

 初めに「あれ?」と思ったのは、お風呂で体を洗っている時、腕が凄く疲れたことでした。

 その時はただの運動不足だと思ったのですが、それから5年経った2014年の春には、枕から頭が持ち上がらず、ちゃぶ台につかまってやっと立ち上がる……という状態になりました。さすがに「これはただの運動不足じゃないな」と思いました。

 その直前まで、3週間のモロッコ旅行を楽しんでいました。旅先で筋力の衰えを感じるシーンは多々あったのですが、無事に帰国した直後の異変でした。

 決定的だったのは自宅アパートの階段でコケて動けなくなり、近隣の方に助けられた時です。「これは病院へ行かなくちゃ」と思いました。

 整形外科を受診すると、血液検査で筋肉の細胞が壊れたことを意味する「CK」(クレアチンキナーゼ)の数値が異常だと指摘されました。

 そして、日本赤十字社医療センターを紹介されたのです。決まっていた展示会までは何とか仕事をして日赤を受診すると、「恐らく皮膚筋炎だろう」という見立てがあり、検査入院となりました。皮膚筋炎は自己免疫疾患の一種で、肩回りや脚の付け根の筋肉に力が入らなくなり、重症になると寝たきりになる、国が指定する難病です。悲しくて涙が出ました。でも、私よりも広島から来てくれた母親のほうが泣いていました。

 思えば、健康にいいことを何ひとつしてきませんでした。いつも部屋にこもって絵を描いてばかり。運動もせず、食べ物も好きな肉と甘い物中心で……(笑い)。そんな後悔と反省がどっと湧きました。

 自分が難病とは思いたくありません。でも、認定されるか否かは治療費の面で天国と地獄。難病認定されるためには、筋肉の生検の分析結果とともに細かい条件があり、それに合致しないといけないとのことでした。太ももから筋生検を取る手術をした後、医師から「認められない可能性もある」と聞かされました。

 不安を抱えたまま、すぐに「プレドニゾロン」(ステロイド薬)の投薬治療が始まり、そのまま3カ月の入院生活になりました。

 その頃はステロイドの副作用でさらに筋力が落ち、一時は自力でパンツもはけませんでした。

 なかなか数値が改善されなかったので「免疫グロブリン」という高額(1クール約100万円)な薬の点滴が5日間ありました。その効果も途中で止まってしまったので、その後に月に1回の「エンドキサンパルス」という抗がん剤の点滴治療が6回続きました。

 不安だったのは金銭面です。「もし難病と認められなかったら、薬代を払い続けられるのか?」「この体で他の仕事ができるのか?」といろいろ考えました。

 でも退院前、無事に難病認定が下り、不安は少し解消されました。変な言い方ですが、「難病でよかった」というのが正直なところです。

 退院のめどが立った頃、役所の人が病院に来て、退院後に必要な補助用具や介護サービスなどを説明してくれました。難病認定の手続きから何から、すべては母任せ。家族の愛を感じずにはいられませんでした。

 退院直後は15分歩くのがやっとで、母の他にも訪問看護師さんや介護ヘルパーさんのお世話になりました。その後は徐々に回復し、3カ月後には母も広島に帰宅。一人で何とか暮らせるようになりました。

■退院から1年足らずで2泊5日の台湾一人旅へ

 そして何と、退院から1年を待たずに2泊5日の台湾一人旅へ出かけました! もともと自由なバックパッカーのような旅が好きなのです。病気になって一度はバックパックを捨てたのですが、ある日「台湾片道900円」というネット広告を見つけてしまって……。

 それ以来、格安チケットを見つけては一人であちこち行っています。最近は東チベットを訪れました。見たい景色のために、普通の人が1時間で行く場所へ2時間かけて行く。そうやって元気になってきた感じです。

 ただ、去年また数値が悪くなってしまって、プレドニゾロンの量が増えました。それだけでは効かず、点滴治療で1週間入院しました。

 悪くなったら治療して休み、いい時は旅と仕事をするという繰り返し。この先も多分、ずっとそんな気がします。

 今でも走れないですし、自転車はこげない、坂道はおぼつかない、段差は一段一段、手すりなしでは上りも下りも不安定です。ただ、幸い絵を描くにはあまり支障がありません。近頃は展示会に積極的に参加して、作品作りに励んでいます。

 (聞き手・松永詠美子)

▽やまだ・うづき 広島県生まれ。1995年に別冊マーガレットの「くまちゃん」でデビュー。旅エッセー漫画「ヘキ地メシ」や皮膚筋炎になった自分を描いた漫画「ふいにたてなくなりました。」などを出版。9月1日(土)~9日(日)に「ラビットデパートメント」(横浜赤レンガ倉庫)にて「山田雨月フェア」を開催予定。

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