天皇の執刀医「心臓病はここまで治せる」

犬を飼っているとストレスが癒やされて心臓病リスクが減る

天野篤氏
天野篤氏(C)日刊ゲンダイ

 犬を飼っている人は心臓疾患にかかるリスクが減る――。海外にはこんな調査の報告があります。スウェーデンの研究チームが340万人を対象に12年間にわたって医療記録を分析したところ、一人暮らしで犬を飼っている人は、飼っていない人に比べて心血管疾患で死亡するリスクが36%低く、家族と同居している人でも15%低かったそうです。

 犬を飼うことがどうして心臓病を減少させるのかについてははっきりしていませんが、論文の著者は「犬の散歩などで飼い主が体を動かす機会が増えたり、犬との触れ合いが孤独感やストレスを癒やし、健康にいい影響を与えている可能性がある」としています。

 実際、ストレス解消=リラックスすることは、心臓を守るうえで非常に大切です。ストレスを受けると交感神経が優位になり、神経伝達物質のアドレナリンが大量に分泌されます。アドレナリンは心拍数を増加させて血流を増やす効果と、血管を収縮させる効果で極端に血圧を上昇させます。その結果、心臓の負担が増えてしまうのです。

 また、ストレスを受けて副腎皮質ホルモンが多くつくられることでコレステロールの血中濃度が高まり、血糖値も上昇して動脈硬化による病気が起こりやすくなります。ストレスは、高血圧、高コレステロール、高血糖という心臓疾患の代表的なリスク因子を揃える原因になるということです。

 日本にもストレスと心臓疾患に関する研究があります。何らかの趣味を持っている人は、趣味がない人に比べて心血管疾患の発症が少ないというものです。ゴルフ、ジョギング、釣りなどの体を動かすような屋外での趣味だけでなく、読書、映画観賞、コンサート、ゲームといったインドアの趣味でも、差はなく発症が少ないと分析されています。趣味でストレスが解消されたり、リラックスできることが心臓を守っているといえるでしょう。

 反対に、頻繁に怒りを爆発させてストレスを抱えている人は、心血管疾患の発症リスクがアップするという報告があります。ハーバード公衆衛生大学院の研究チームが怒りと心臓病の関連を調べた9件の研究を解析したところ、激しい怒りの後では、心筋梗塞や心臓発作などを発症するリスクが4・7倍に増えていました。仮に1日5回怒ると、心臓にリスクを抱えている人は1万人当たり年間657回の心臓発作が起こる計算になり、心臓に問題がない人でも年間158回に上るといいます。

■交感神経優位の時間を減らすことが大切

ストレスを解消できない人はオンとオフの切り替えがうまくできていないということです。そうしたタイプの人は、他人よりもいいもの、評価が高いものを欲しがるような野心家が多いといえます。

 地位や名誉も含めたそれらを手に入れるため、長い時間働いたり、常に神経をすり減らすような行動を日頃から続けています。そんな行動そのものが心血管疾患リスクをアップさせているのです。熟睡できないという人もそうしたタイプが多く、睡眠不足は同じく心血管疾患のリスクが上昇します。交感神経が優位になっている時間が長くなるからです。

 ストレスを解消したり、リラックスする方法は個人によってさまざまです。テンションが高い=交感神経が優位になっている状態を少しでもリセットするために、まずは疲れたら眠ることができる環境を整えましょう。その際、睡眠時無呼吸症候群の診断を受けている人は姿勢に注意です。

 さらに、自分がホッと息をつけるのはどんなことをやっている時かを意識して探してみてください。

 ちなみに、米国心臓病学会はストレスをうまく解消して心血管疾患を防ぐために5つの方法を推奨しています。①家族や友人と会話する②運動や身体活動を増やす③自分の人生を受容する④笑う⑤アルコールやカフェインに注意する。ひとつでもいいから日々実践することが、心臓を守ることにつながります。

天野篤

天野篤

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

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