患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

糖尿病10年 非典型的サインの低血糖で意識障害起こし昏倒

平山瑞穂氏
平山瑞穂氏(C)日刊ゲンダイ

 インスリンを打った後に十分な量の食事を取っていたとしても、何かの加減でインスリンが効きすぎてしまい、低血糖に陥ることは往々にしてある。

 とはいえ、目のかすみ、手の震え、意識の散漫化など低血糖の兆候を見逃さず、速やかに糖分などを補給できるなら、そう恐れるには当たらない。仮に眠っている間に低血糖が起きたとしても、たいていは異常な発汗、説明のつかない激しい動悸などで自然に目が覚め、結果として対処することができる。

 いや、「ある時期までは対処できる」と言うべきかもしれない。

 折々に低血糖に見舞われる生活を長年続けていると、次第に体が慣れてしまい、兆候が明らかな形では出にくくなる。なんだか頭がボーッとするな、と怪しんで血糖値を測ってみると、意識を失う寸前くらいまで下がっていたりする。

 僕の場合、糖尿病と診断されて10年目くらいからその傾向が強まり、ある時ついに、意識障害を経て昏倒するに至った。しかも、就寝中の出来事である。

 明け方、ベッドの中で汗みどろの僕が異様なうなり声を上げていることに妻が気づいた。

 低血糖らしいと悟り、ゼリー飲料などを口に含ませようとしたが、もはや、まともなコミュニケーションが取れない。僕はそのまま、駆けつけた救急隊員の手で病院まで搬送された。

 その間の断片的な記憶として残っているのは、「何者かが僕を拘束してどこかに拉致しようとしている」という感覚だけだ。

 血糖が枯渇して体が不随になっていただけなのだが、それも怪しい薬を盛られたかのように妄想していた。

 次に覚えているのは、診察台の上で意識を取り戻した瞬間。点滴経由でブドウ糖を投与され、一命を取り留めたのである。

 上からのぞき込む知らない顔の女性が看護師だと気づき、状況を正確に理解するのに、ずいぶん時間がかかった。

 僕にとってももちろん恐ろしい経験だったが、妻の味わわされた恐怖はそれ以上だっただろう。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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