患者が語る 糖尿病と一生付き合う法

眼底検査後に映画館…瞳孔全開で何を見てもまぶしく後悔

平山瑞穂氏
平山瑞穂氏(C)日刊ゲンダイ

 前にも書いた通り、糖尿病はそれ自体よりもむしろ合併症が恐ろしい病気だ。そのうちのひとつに、眼底出血がある。

 早期に発見すれば、レーザーで患部を焼き切るなどして悪化を食い止められるが、放置すれば最悪の場合、失明に至る。 

 そうならないためには、定期的に眼科で眼底検査を受ける必要がある。主治医には最低でも年に1度は行くように言われているのだが、ついつい先延ばしにして間遠になりがちだ。

 先日ようやく眼科に行ったところ、前回は5年くらい前だったと知らされて愕然とした。血糖コントロールが比較的良くて、合併症の脅威が切実なものではないことに甘えてしまっていたのだ。

 幸い異常は見つからなかったものの、こんなに間を空けてしまったのは、ひとつには初めて眼底検査を受けた時のトラウマを引きずっていたからだろう。

 検査に痛みはない。ただ、瞳孔を強制的に開きっぱなしにする点眼薬をさされ、その効果が何時間も持続するのが厄介なのだ。

 初めての時はまだ会社勤めをしていたので、検査のために午後、半休を取った。検査はあっけなく終わってしまい、そのまま帰宅するのもなんだかもったいない気がしたので、急きょ劇場で映画を見ていくことにした。

 忘れもしない、クエンティン・タランティーノ監督の「キル・ビルvol.2」である。

 眼底検査初心者の僕には、分かっていなかったのだ。点眼薬の効果が消えていない間の娯楽として、映画観賞がいかに向いていないかということが。

 なにしろ瞳孔が全開の状態なので、何を見てもまぶしくて、字幕もろくに読めない。

 しかも「キル・ビル」シリーズといえば、これでもかと言わんばかりの残虐な殺戮(さつりく)シーンの連続である。

 スクリーンに飛び交う血しぶきすらまぶしくて、ストーリーを追うどころではなかった。

 その後、検査を受けた時には、いさぎよく帰宅してしばらくは何もしないようにしている。

平山瑞穂

平山瑞穂

1968年、東京生まれ。立教大学社会学部卒業。2004年「ラス・マンチャス通信」で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。糖尿病体験に基づく小説では「シュガーな俺」(06年)がある。

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