Dr.中川のみんなで越えるがんの壁

妻にイボの増大を指摘され…がんも一病息災でうまくいく

2014年に相次いで大病に見舞われたビリー・バンバン(右から兄の菅原孝さん・弟の進さん)
2014年に相次いで大病に見舞われたビリー・バンバン(右から兄の菅原孝さん・弟の進さん)/(C)日刊ゲンダイ

「大きくなってきたんじゃない。専門の先生に診てもらったら?」

 先日の土曜日、妻に指摘されたのが、こめかみにあるイボです。

 随分前からあって、鏡で見ると確かに大きくなっていました。

「メラノーマだったら大変よ」

 メラノーマは悪性黒色腫で、皮膚がんのひとつ。「ほくろのようながん」といわれます。昨年末に膀胱がんの手術を受けたばかりで、そう言われるとドキッとします。

 心配になってiPhoneで写真を撮って、知り合いの皮膚科医に送信。

 月曜日には、東大病院の皮膚科専門医に診察してもらったのです。

 結論からいうと、「脂漏性角化症」。「年寄りイボ」と言われることもあるように、皮膚の老化現象のひとつ。まったく心配ありません。

 何が言いたいかというと、一病息災です。膀胱がんになっていなければ、妻はイボの大きさを気にしなかったでしょう。私も、わざわざ写真を撮ったり、受診したりしなかったはずです。神経質になり過ぎるのはよくありませんが、自分の体を大切にするのは決して悪いことではありません。結果的に受診したことが無駄になりましたが、それでもいいと思っています。

 漫画家の柴門ふみさん(62)は2010年に乳がんと診断されましたが、手術やホルモン療法を受けて、今も元気にペンを走らせています。

 今も1年に1回マンモグラフィー検査(乳房X線撮影)を受けていて、検査の日は自分へのご褒美で、買い物に出掛けたりおいしいものを食べたりしているそうです。

 兄弟フォークデュオのビリー・バンバンは14年、兄の菅原孝さん(74)が脳出血、弟の進さん(71)が大腸がんを相次いで患っています。それぞれ大病を克服し、2年後には「さよなら涙」を発表。その歌詞には、こんなフレーズがあります。

「♪さよなら涙 この先へ行こう」

 孝さんは読売新聞のインタビューに「ファン自身が病気だったり、身内に病気の人がいたりするから今は気持ちが重なる。病気はマイナスだけじゃなかった」と語っています。

 柴門さんも菅原さん兄弟も、病気と折り合いながら前向きです。病気になったからこそ、体の声に耳を傾け、前向きになれたという一面もあるでしょう。

 がんの専門医として、がんで苦しんでいる方がたくさんいるのは承知しています。がんという病気があることで、自分の体を気遣いながら前向きに頑張る人は決して珍しくないのです。がんであっても、一病息災。特に早期に見つけることができれば、なおさらでしょう。膀胱がんになって、つくづくそう思います。

 だからこそ、読者の方々は、ぜひがん検診を受けて、早期発見に努めてください。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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