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【ウドの焼き浸し】アク抜きせず香りと苦味を丸ごと味わう

ウドの焼き浸し(皮のきんぴら、穂先とホタルイカの佃煮風)
ウドの焼き浸し(皮のきんぴら、穂先とホタルイカの佃煮風)(C)日刊ゲンダイ
ホールフード主義<1>

 春野菜の持つ力強さは、ときに苦味だったり、えぐみだったりすることがあります。淡泊な味ではなく、その野菜がもつ「押しだし」の強さのようなものも旬の野菜の魅力です。

 今回紹介するウドはふつうはアクが強い野菜として知られています。でも、このアクというか、強い香り、苦味こそがウドの魅力で、そこに春があるのです。

 料理の教科書にはアク抜きのため酢水に漬ける、あるいは茹でると書いてあります。でも、昨今、スーパーで売られているウドには、それほどのアクはありません。消費者に受けているからでしょうが、私に言わせれば、物足りない。昔の野菜の方が濃厚でした。

 ですから、今回はアク抜きの工程を入れていません。産毛の処理も包丁を使わず、スポンジでこすり落とすだけです。世の中に流布されている情報を信じ、型通りのアク抜きをしていたら、ウドの香りが飛んでしまいます。それがおいしいものだと信じ込んでいると、旬を丸ごと楽しむことはできないし、食材のパワーを享受できなくなるのです。

 煮浸しに使う白い部分はこれくらい大きく切れば、歯ごたえも含めて、ウドを実感できます。焦げ目が香りを引きたて、梅のだし汁は塩分を控えめにしてくれます。皮はきんぴらに。砂糖は入れません。穂先の方はえぐみがあるので、ホタルイカと合わせて、佃煮風にしました。旬のお料理は出合いの組み合わせを大事にします。春が2倍になるからです。

 福岡先生は旬のものを丸ごと味わうことが「生きる力」につながるとおっしゃっていますが、同感です。それを具現化したレシピです。

皮(右)と穂先(央)も使う
皮(右)と穂先(央)も使う(C)日刊ゲンダイ

《材料》
◎山ウド 30センチを2本
◎オリーブオイル 大さじ2

・・・A・・・
だし 1カップ
酒 大さじ3
梅干し1個(果肉は叩く、種はきんぴらに)

◎薄口醤油 大さじ1

《作り方》
(1)穂先から軸下に向けてウドの産毛をスポンジでこすり落とす。軸下約3センチを切り落とし、10センチに切りそろえる。穂先は取り置く。
(2)皮を5ミリの厚さでむき取り置く。
(3)ウドの全体にオリーブオイルを塗る。250度に予熱したオーブンか魚焼きグリルで焼き色がつくまで焼く。
(4)Aを小鍋で煮立てたら火を切る。薄口醤油を加え、焼き上がったウドを漬ける。常温になったら盛り付けていただく。

【皮のきんぴら】
 取り置いた皮を長さ5センチ、幅5ミリの棒状に切り、ごま油大さじ1を熱したフライパンで炒める。梅干しの種、みりん大さじ1、薄口醤油大さじ1を加え強火で炒り飛ばす。最後に白ごまをあしらう。

【穂先とホタルイカの佃煮風】
 小さい土鍋、または準じた鍋に目玉とくちばしを除いた茹でホタルイカを入れ、ウドの穂先や枝葉の部分を小さめの乱切りにして加える。酒2分の1カップを加えてさっと煮立てる。三温糖大さじ1を加えて溶けたら、醤油大さじ2を加え、好みの具合に煮詰める。木の芽をあしらって。

(松田美智子)

生命体に必要な栄養素が過不足亡く含まれ、健康にそのまま反映される

 ホールフーズといえば米国の自然食品スーパーマーケットチェーン。どの店舗も広大なスペースに新鮮な有機食材が満載、いつも買い物客で賑わっている。肥満が多い米国人だが、心ある人は食へのこだわりと健康志向が異常に強い。

 ところで、ホールフーズの原義は「丸ごと食品」ということ。丸ごと、つまり小魚なら頭から尻尾まで、野菜なら葉っぱ、茎、根っこまで全部を一挙にいただくことが、一番正しい食べ方である、ということ。

 なぜなら丸ごと食品にはその生命体に必要な栄養素が過不足なく含まれており、それは我々人間の健康にそのまま反映されるからである。トロとか霜降りとかキモなどもそれなりにおいしいが、ホールフーズの視点から見ると、生命体の一部には栄養に偏りが出る。

 さて、今回の食材は旬のウド。ウドの大木という言い方もあるが、それだけ成長が早いということ、つまり植物体の中を激しく栄養素が動いている証拠。成長点の穂先には糖質とアミノ酸が集中。甘味とうま味が凝集されている。皮は食物繊維、身はミネラルやビタミンの宝庫。これぞホールフード。

(福岡伸一)

▽福岡伸一(ふくおか・しんいち) 1956年東京生まれ。京大卒。米ハーバード大医学部博士研究員、京大助教授などを経て青学大教授・米ロックフェラー大客員教授。「動的平衡」「芸術と科学のあいだ」「フェルメール 光の王国」をはじめ著書多数。80万部を超えるベストセラーとなった「生物と無生物のあいだ」は、朝日新聞が識者に実施したアンケート「平成の30冊」にも選ばれた。

▽松田美智子(まつだ・みちこ) 女子美術大学非常勤講師、日本雑穀協会理事。ホルトハウス房子に師事。総菜からもてなし料理まで、和洋中のジャンルを超えて、幅広く提案する。自身でもテーブルウエア「自在道具」シリーズをプロデュース。著書に「季節の仕事」「調味料の効能と料理法」など。

※この料理を「お店で出したい」という方は(froufushi@nk-gendai.co.jp)までご連絡ください。

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