看護師僧侶「死にゆく人の心構えと接し方」

「ありがとうという言葉は、今日言いなさい」

看護師僧侶の玉置妙憂さん
看護師僧侶の玉置妙憂さん(提供写真)

 死について考えることがタブーで、長年連れ添った夫婦間でも、話し合うことを忌み嫌う。だいたい、死ぬなんて不吉なことなど考えたこともない。

「でもね、お釈迦様も王子時代は貧乏とか病気、人が死ぬことも知らなかったのです。お城を抜けて社会に出てから、初めて生きるとはどういうことか、病気になるとはどういうことか、死ぬとはどういうことかを追究しました。多くの説法も残しています。私たちも個々に、自分が送った人生の“ものさし”に合わせた『死生観』を持つことが大事ではないでしょうか。その日が近づいて慌てないように。高齢者になったら、特にそうですね」

 こう語るのは看護師僧侶の玉置妙憂さん(写真)だ。

 30歳で看護師資格を得て、主に外科医の看護師を務め、8年前に高野山真言宗で1年間の修行を経て僧侶になった。出家した動機は、最愛の主人を病気で亡くしたことがきっかけである。

 看護師僧侶という異色ともいえる立場で、これまで、およそ数千人の人を看護、みとってきたという豊富な経験を持つ。

 現在なお、がん末期の告知を受けた人、または病床に伏している人や、患者を介護する家族からさまざまな相談を受け、的確なアドバイスを行っている。

 アドバイスといっても、玉置さんは多くを語らない。説教や批判も皆無で、励ましの言葉さえも不要にしている。

 本人や家族から話を聞く「傾聴」の時間は、相手が8割、残りのわずか1~2割程度が玉置さんの持ち分だ。質素な作務衣姿で対座し、静かに聞きながら深くうなずく。

■やりたいことは前倒しに

「とにかく話を聞いて、聞き流します。たまに“死ぬ直前に妻に面倒かけたね、ありがとうと言いたい”という人には、ダメです。ありがとうという言葉は、今日言いなさいねと、一言付け加えます」

 また、重い病気にかかり、ある程度死期を予測できた人は、生命保険証書の確認や財産、あるいは周囲にある本を整理するなど、死の準備に入る。部屋を片付けながら、「そのうち北海道旅行か、温泉に行きたい」「一度行ってみたい国がある」「久しぶりに会いたい人がいるから、そのうち会ってみるか」など、ぼんやりと思いまねく。玉置さんが言う。

「そんな将来の楽しい夢など、どんどん前倒ししたらいいのです。自分を犠牲にして頑張ってきた人ほど、実現できない理由を挙げます。でも、意外かもしれませんが、紙に、実際にやりたいことを書き出してみてください。実行できることが多くあります。楽しいことを優先したらいいのです」

玉置妙憂

玉置妙憂

東京都生まれ、53歳。専修大学法学部卒業後、法律事務所に勤務。長男の重い病気が動機になり30歳の時、看護師資格を取得。46歳の時に、がん闘病の主人を自宅でみとった後、高野山真言宗に得度した。臨床宗教師としても講演、執筆活動を行っている。「大慈学苑」主宰。

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