看護師僧侶「死にゆく人の心構えと接し方」

死を恐れず、自分の生き方に合った死生観を持つことが大事

(提供写真)

 この4月、看護師僧侶の玉置妙憂さん(53)は、非営利一般社団法人「大慈学苑」(東京都江戸川区)を立ちあげた。

 大慈の慈は、仏教用語の「慈悲」(慈しむ・悲しむ)から取ったもので、「慈」は「見守ってあげますから、自分で立ち上がりなさい」という意味を持つ。

 玉置さんは看護師20余年、僧侶8年を重ねた看護師僧侶である。

 長年の看護師経験と僧侶として体得した魂(スピリチュアル)を生かして、こんな願いを語る。

「世の中に医学や科学だけではどうしても解決できないことがたくさんあります。まず誰もが逃れられない『死ぬこと』がそうですね。そうした死に逝く人に寄り添い、それをみとる家族の葛藤、その家族たちのきつい介護生活の苦しみ、または地域社会のつながりなど、私の経験を生かした社会活動を行っていきたいと思います」

 ネットに「大慈学苑」のホームページを立ち上げると、全国から30件を超える問い合わせがすぐにあったという。

「お会いして相談したい」という希望者がいると、スケジュールを調整して全国どこにでも訪ねる。

 往復の交通費だけはいただくが、料金は請求しない。年間の会費は1万円。「傾聴」の時間は約1時間と決めている。

 こうした個別の相談活動以外に玉置さんは、関東圏の寺院などを会場にして、定期的に親の介護とみとりについて学ぶ「養老指南塾」や「スピリチュアルケアサポート養成講座」なども開いている。

 学生時代、中国・シルクロードを訪ねた。西安の空海と関係が深い由緒ある寺院を訪問して1週間ほど滞在してしまう。仏教にすっかり魅せられた玉置さんは、両親を説得して中国にも留学した。この若い時代の体験が、やがて剃髪して高野山真言宗での得度に結びついたようだ。

 都内の病院に看護師として勤務しながら、もっぱら「在宅ケア」を講じている玉置さんは言う。

「在宅ケアでは、台湾が世界的にも優れているのです。何分、在宅ケアの充実で台湾の医療費用が2億円削減できたといわれています。私も台湾を何度も訪ね、在宅ケアとは何かを学びましたね」

 長いインタビュー時間で、印象を強く残したのは玉置さんが抱く「死生観」だった。

「死を恐れてはいけない。肩の力を抜いて、自分の生き方に合った『死生観』を持つこと」

 親を介護する家族には、こうアドバイスする。

「決して無理することなく、苦しさに耐えることはない。少しの時間があったら自分も楽しみなさい」

 高齢化社会に一石を投じるような意見である。

 (おわり)

玉置妙憂

玉置妙憂

東京都生まれ、53歳。専修大学法学部卒業後、法律事務所に勤務。長男の重い病気が動機になり30歳の時、看護師資格を取得。46歳の時に、がん闘病の主人を自宅でみとった後、高野山真言宗に得度した。臨床宗教師としても講演、執筆活動を行っている。「大慈学苑」主宰。

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