後悔しない認知症

新たな出会いがあるデイサービスは脳を使う「新天地」

デイサービスは新しいコミュニケーションの場
デイサービスは新しいコミュニケーションの場

 前回、92歳で1人暮らしをしている軽度の認知症女性の話を紹介した。子どもの説得でそれまで拒んでいたデイサービスへの参加やヘルパーの介護を受け入れたところ、その快適さを知り、いまではそれを楽しみにするようになった女性だ。

 こうした例は数多くある。認知症と診断されたことをきっかけに外出しなくなり、塞ぎ込むようになったものの、デイサービスに参加するようになって「人が変わったように明るくなった」という。こんな話もある。デイサービスの迎えのクルマを心待ちにする認知症の父親がいた。子どもが施設のケアマネジャーに尋ねたところ、そこで小学校の同級生だった女性と何十年ぶりかに再会し、お互いに機嫌のいい時間を過ごしているのだそうだ。一方で、夫婦でデイサービスに参加していたところ、ほかの女性と親しげに話している夫の姿を見て妻が嫉妬しはじめたなどという例もある。

 同居、別居を問わず、認知症の親を持つことは子どもに負担を強いることは間違いない。子どもがすべてを引き受けてしまえば、疲弊してしまい、仕事を辞めざるを得なかったり、肉体面、心理面での健康を損ねたりする可能性もある。「親の面倒は自分で」「親がかわいそう」「親が他人の世話になるのは嫌」などさまざまな理由があろうが、これほど不幸なことはない。そうした事態を回避するために、デイサービスなどの介護サービスを積極的に利用すべきだ。

■介護を行う子どもにとっても負担軽減になる

 サービスを受けるためには「要介護」の認定が前提。1997年に制定された介護保険法に基づいて、自治体と民間の事業所が連携して行っているものだ。一般的なデイサービスは、内容、料金などは被介護者の収入や要介護レベル、あるいは居住するエリアによって多少異なる。基本的には、送迎付きで食事、入浴、各種のレクリエーションなどで5~7時間施設で過ごす。仕事など家族の都合に合わせて延長が可能なところも多い。家に引きこもりがちな認知症の高齢者だが、体を動かすことになるし、同世代の人間との交流機会もある。施設では介護の専門家であるケアマネジャーやヘルパーらが対応してくれるから、新しいコミュニケーションの場にもなる。

 なによりも日ごろ介護を行っている子どもにとっては、肉体面、心理面の負担を軽減できる。さらに施設のスタッフからのリポートなどで、立ち居振る舞いなど日ごろ気がつかなかった親の新しい面を知ることにもなる。先に述べた嫉妬心に駆られた女性などは「結婚して60年。はじめて夫が歌っている姿を見た」とオカンムリだったそうだ。認知症の高齢者にとってデイサービスの場は、いろいろな意味で新たな出会いの場であり、まさしく「脳を使う場」でもあるのだ。

 これまで私は、認知症の進行を少しでも遅らせるために「脳にラクをさせないこと」が重要であることをたびたび述べてきた。本、雑誌、新聞、あるいはテレビなどで新しい情報を入力する機会を減らさないようにし、併せて、手紙や日記を書くことによって情報を出力する機会を増やすことで脳の老化を少しでも遅らせるようにと、述べてきた。前回述べたようにさまざまなスキンシップも欠かせない。だが、子どもだけでこうしたプログラムを親にやってもらうのはむずかしい。介護サービスが子どもにとっては大きな助けになることを覚えておくべきだ。こうした家庭以外の環境は親にとっては、新しい経験のできる「新天地」なのである。

和田秀樹

和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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