後悔しない認知症

体験した「エピソード記憶」の喪失を食い止める方法はある

写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 たとえば、「ハワイに行ったのを覚えているよね」という子どもの問いかけに「忘れた」と無表情の親が答え、「はじめての海外旅行のことも覚えていないのか……」と子どもは落胆する。似たような経験を持つ子ども世代は多いはずだ。このように親子が共有していた鮮烈な記憶でさえ、認知症の親の脳からは消えてなくなってしまうことがある。認知症にかぎらず、高齢の親には多かれ少なかれ認められる症状なのだが、こうした親の記憶の消失は、子どもにとってつらい。

 前回、新しく体験したことを覚えられない「記銘力障害」について述べたが、このように古い記憶がなくなってしまうのが「想起障害」である。中高年以上になって、上書きされる情報が多くなり、過去に覚えたことを思い出しにくくなることは当たり前のことではあるが、加齢現象の場合、その主たる原因は脳の海馬の機能低下である。

 心理学では、人間の記憶を2つに分けている。ひとつが「エピソード記憶」で、もうひとつが「意味記憶」である。「エピソード記憶」とは簡単に言えば、自分が体験したことの記憶である。たとえば「北海道に行ったことがある」「○○君とは中学の同級生」といった努力を要さず自然に定着した記憶であり、「意味記憶」は文字通り、数学の公式とか歴史的事件の年号、あるいは外国語など学習によって定着させた記憶である。

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和田秀樹

1960年大阪生まれ。精神科医。国際医療福祉大学心理学科教授。医師、評論家としてのテレビ出演、著作も多い。最新刊「先生! 親がボケたみたいなんですけど…… 」(祥伝社)が大きな話題となっている。

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