ストレスフルでもうつ病にならない人は腸内環境に理由あり

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 ベルギーの1054人の腸内細菌を調べた研究で、一部の細菌群とメンタルヘルスの間に関連性があるという結果が出た。うつ病と診断されている人の腸内には、ある種の腸内細菌が少なく、この結果はオランダで1063人を対象にした類似のコホート研究の結果と同様だったという。うつと腸内環境は関係しているのか? 千葉大学社会精神保健教育研究センター副センター長の橋本謙二教授に話を聞いた。

「うつ病の患者さんと健康な人の腸内環境を調べると、うつ病の方は腸内環境が乱れている。これは、実際の臨床現場でも言われていますし、関連した論文もいくつかあります。薬で腸内環境は変わるので、抗うつ薬が関係していると思われるかもしれませんが、論文では治療前の患者さんと健康な人とを比べているので、抗うつ薬を処方した結果ではないでしょう」

 うつ病だけでなく、自閉スペクトラム症や統合失調症などほかの精神疾患でも、腸内環境との関係が指摘されている。

 たとえばうつ病患者、または統合失調症患者の便から調整した腸内細菌をネズミに与えると、ネズミがうつ様行動、または統合失調症様の行動異常を示すという論文も海外の一流雑誌に掲載されている。脳と腸内細菌に密接な関係があることを示しているのだ。

 橋本教授はネズミにストレスを与える研究を行った時、うつ様の行動を示すようになるネズミとそうでないネズミがいることに気づいた。

 人間の場合は遺伝や環境要因などでストレスへの強さは人それぞれだが、研究用のネズミの場合、親やエサ、飼育条件は同じ。遺伝や環境要因による違いがなく、本来“ネズミそれぞれ”とならない。

「調べた結果、うつ様行動を示すネズミは乳酸菌の一種であるラクトバチルスが腸内で増えていて、うつ様行動を示さないネズミは、ストレスを与えていないネズミと腸内環境は同じであることが分かりました」

■腸内細菌のバランスが重要

 抗生物質は腸内細菌を殺す。これを利用して、一方のネズミには抗生物質のカクテルを飲料水として与え、腸内細菌を死滅。もう一方のネズミには通常の飲料水を与える研究も行った。

 橋本教授は当初、抗生物質を与えた方がストレスに弱いだろうと考えていたという。

 しかし、結果は、抗生物質で腸内細菌を死滅させ、その後ストレスを与えたネズミの方が強かった。すなわち、抗生物質で腸内細菌を死滅させた群の方が、ストレスに強かったのだ。

「腸内細菌には良い菌もいれば悪い菌もいる。また、良い菌でも環境によっては真逆の働きをする可能性があると考えている。つまり、この研究から考えられるのは、どの腸内細菌がいるかいないかより、腸内環境のバランスの方が重要なのではないかということです」

 実は、前出のラクトバチルスという乳酸菌の一種は、整腸作用や免疫調節作用などを持つ“良い菌”として知られる。しかし、ネズミにストレスを与えた研究では、うつ様行動を示したネズミの腸で増えていた。

 また、ネズミに電気けいれんショックを与えると、やはりうつになるネズミとならないネズミがいるが、うつになる方では乳酸菌が増加。腸内細菌のバランスの崩れがうつ病と関係していることは推測できる。

 脳と腸は密接な関係、すなわち、「脳腸相関」が重要であると思われる。

「腸内環境を整えれば病気予防になると言えるでしょう。腸内環境は不規則な食事、睡眠不足、お酒の取り過ぎ、ストレスフルな環境などでバランスが崩れる。それらをひとつでも排除することが、レジリエンス(回復力・復元力)のある体づくりにつながります」

 できることから始めよう。

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