脳梗塞の意外なサイン…年を重ねて「背」が縮んだら要注意

前かがみに注意
前かがみに注意(C)日刊ゲンダイ

 老親を見て「小さくなった」と感じることがあるだろう。その“変化”は、脳梗塞のリスクが高い状況かもしれない。

「高齢者で前かがみの姿勢になっている人は少なくありません。顔が下を向き、首の辺りから前かがみになっている場合は特に要注意です」

 こう指摘するのは、国立病院機構東京医療センター感覚器センター(耳鼻咽喉科学)の角田晃一医師だ。こういう高齢者が喉の違和感を訴えた場合、角田医師は脳梗塞の予兆を疑うという。

 角田医師が別の病院に勤務していた頃、耳鼻咽喉科の外来に82歳の男性が内科から紹介されてきた。患者は咽頭の異物感を訴えており、右へんとうの肥大が原因ではないかとのことだった。

「視診では首の前屈があり、首が短くなっている印象を受けました。口腔咽頭を観察すると、明らかなへんとうの肥大は認められず、咽頭後壁(口の突き当たり)にコブのようなものが見られ、脈に同期してコブが拍動していました。経鼻的喉頭ファイバースコピーで頚動脈が不自然に曲がる変位走行異常が確認できました」(角田医師=以下同)

 頚動脈の変位走行異常があれば、ホースがねじれて水の出が悪くなるのと同様、血液の流れに変化が起こる。ある場所ではスムーズに流れるが、ある場所では速くなったり、ゆっくりになったりする。たとえば、ホースの先端を狭くすれば水の流れは速くなって遠くに届く。一度ゆったりして、その後、ドバッと一気に流れると、勢いで血栓が脳に飛び、脳梗塞を起こす可能性がある。

 そこで角田医師は患者に「脳梗塞を起こす可能性がある」と紹介状を書いた。患者は1週間後に内科に行くと言っていたが、6日目で脳梗塞を起こしてしまった。

 このことをきっかけに、角田医師は高齢者の患者に口腔咽頭の観察と経鼻的喉頭ファイバースコピーを実施。すると、多くの患者で頚動脈の変位走行異常が見つかった。共通点は「首が前かがみ」「加齢による動脈硬化」だった。そこで初診で65歳以上の172人に承諾を得て、経鼻的喉頭ファイバースコピーを行った。17人(約1割)に頚動脈の変位走行異常があり、17人すべてにMRIで無症状の脳梗塞が見つかった。

■首の動脈が不自然に曲がることが原因

 角田医師は東京医療センターに移って以降、東京医療センターをはじめとする国立病院機構の12施設の患者データを分析。対象者は65歳以上85歳未満で、脳梗塞患者72人と、めまいや難聴で受診した患者163例(脳梗塞と診断された人は除く)。

 この分析の結果、脳梗塞患者の87・5%に頚動脈変位走行異常が見られた。脳梗塞でない人では、8・6%だった。

 身長についても調べた。身長が3センチ以上減っている人は、脳梗塞患者の76・4%。一方、脳梗塞でない人では19・6%。また、脳梗塞患者の87・5%を「頚動脈の変位走行異常+身長3センチ減」が占めていた。脳梗塞でない人では6・75%だった。

「首の辺りで前かがみになると、胸、胸郭、頭のてっぺんの距離が近くなり首が短くなります。ここには頚動脈があり、加齢で硬くなっているので縮まらず、狭い首の辺りで不自然に曲がるしかなく、脳梗塞を起こしやすくなるのです」

 変位走行異常が起こった最初のうちは、頚動脈が動くので喉の違和感を覚える。経験を積んだ耳鼻咽喉科医が脈を取りつつ口腔内の検査をすれば、異常を見つけられる。

「アスピリンやワーファリンなどで血液をサラサラにして、脳出血を起こさないように血圧をコントロールすれば脳梗塞を予防できます」

 喉の違和感は変位走行異常が起こり始めて約2カ月で固定するため、その後は感じなくなる。

 小さくなった親の姿に胸を痛める前に、子として知っておくべきことがある。

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