独白 愉快な“病人”たち

歌手・門倉有希さん「乳がん」宣告の動揺と闘病と公表と

門倉有希さん
門倉有希さん(C)日刊ゲンダイ

 ただの湿疹だと思っていたら、「乳がん」だったのです。当初は公表を控えていましたが、応援してくださってるファンの方々に“隠し事”をしている状況を心苦しく思い、病状が落ち着いた2019年9月に病気を公表しました。

 異変は18年の夏に始まりました。左胸の脇の辺りに虫刺されのような小さい湿疹ができていたのです。ドレスを着るときにヌーブラをつけたりするので、汗でかぶれてしまったと思って市販の塗り薬で対応していました。でも、なかなか治らないので皮膚科で診てもらうと、そこでも「湿疹」とのことで塗り薬を処方されました。それをずっと塗り続けていたのです。

 しかし、月日が経つにつれてその湿疹がどんどん広がってきて痛がゆくなり、さすがに「おかしいな」と嫌な予感もしたんですけれど、ちょうど年末年始の忙しい時期だったので、「一段落したら病院に行こう」と先延ばしにしていました。

 そして年が明けて2月を迎えたとき、突然、自宅で貧血を起こして歩けなくなってしまったんです。親戚にクルマで来てもらって行きつけの病院に向かい、そこから救急病院に直行しました。

 記憶はほとんどありませんが、ICUに2日間入院して計6本の輸血をしたようです。5本目ぐらいで意識が戻って、いろいろな検査をした結果、「乳がんです」とあっけないほどサラリと言われました。

 医師によると「ホルモンバランスの乱れからきた乳がん」とのことでした。極度の栄養失調だったのです。

 私は極端な偏食で、ニンジンやトマトといった赤いものが特に苦手です。ハンバーガーやラーメンなどのファストフードが大好きで、炭酸飲料にポテトチップス、パンとお菓子が主食というひどい食生活でした。

 食べることにはお金をかけず、その代わり飼っている猫の食事や健康管理には人一倍気を配り、お金はそこにつぎ込んでいました。もちろん定期健診も欠かさず、万全のケアをしています。自分の健診は行かないのにね(笑い)。

■退院後すぐに故郷で凱旋コンサート

「乳がん」と聞いたときは気が動転し、とても受け止められませんでした。しかも、ICUから移ったのが認知症の患者さんがいる病棟だったので、「私、認知症なの? 精神的に障害があるの?」と軽くパニックになってしまったんです。

 ベッドの空きがそこしかなかっただけで、数日後に腫瘍内科の個室に移ったんですけど、先生方には「こんな病院、嫌だ!」と暴言を吐いてしまいました。あとからすごく反省して謝りましたけど……。

 幸い私のがんはタチが悪くなかったようで、使える抗がん剤の種類が多いと聞きました。治療は初めに放射線でがんを小さくしてから抗がん剤で叩くという手順です。2月5日に入院して、2月末には退院しました。

 退院後は仕事と並行しての治療となり、放射線は3月半ばまで、抗がん剤は1クール1カ月のペースで現在10クール目。これからの治療は次のCT検査の結果で決まるという状況です。

 一時は髪の毛がほぼ全部抜けてしまいましたが、奇跡的に生えてきて今のこの髪は地毛です。先生いわく、「まだ抗がん剤治療中なのに、ここまで生えるのは珍しい」とのことでした。

 しかも副作用は脱毛だけで、吐き気はありません。抗がん剤を打つと1~2日は火照ったり、イラついたり、だるい症状はあるものの、それくらいで済んでいるので、きっと先生が一番合う薬を選んでくださったのだと思います。

 今は母親と同居しているので、食事面も改善され、苦手な野菜はジュースで摂取していますし、青汁も朝晩飲んでいます。

 おかげさまでめきめき検査結果がよくなって、このところ検査のたびに「パーフェクト」と言われています。

 退院後すぐの3月3日には、故郷での凱旋コンサートのステージに立って歌いました。入院した当初から「この日までに治したい」と先生に懇願して、尽力していただいたたまものです。

 46年間、どれだけ自由気ままだったことか。それを思い知り、やっと周りの人たちの力があって今があることを実感できる人間になれました。皆さんに伝えたいことは、異変を感じたら、楽観視せず、ひとりで抱え込まないですぐにお医者さんへ行ってください。病院が嫌なら、とりあえず誰かに相談を! 誤った自己判断が一番危険ですから……。

(聞き手=松永詠美子)

▽かどくら・ゆき 1973年、福島県生まれ。94年に「鴎…カモメ」でデビュー。96年にNHK新人歌謡コンテストでグランプリを受賞し、同年のNHK紅白歌合戦に初出場した。98年リリースのシングル「ノラ」はヒットして長く愛されている。現在、人気カバー曲を厳選したCD「カバーズベスト」が絶賛発売中。ステージも精力的にこなし、夢グループ主催の「夢コンサート」などで全国を飛び回っている。

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