痛みやかゆみ、発熱などの自覚症状がない病気は放置されがちです。それが“陰部”となると、違和感があっても「恥ずかしいから」と医療機関を受診する機会が遅れてしまいます。
見逃されやすい、そんな男性の陰部の病気で、最も注意しなくてはいけないのは「精巣腫瘍」です。タマ袋の中にある精巣(睾丸)にできる腫瘍で、ほとんどが悪性(がん)とされています。
発生頻度は10万人に1人程度と比較的まれですが、他のがんと異なるのは20代後半から30代にかけて発症のピークがあるところです。この世代の男性に発生する固形がんの中では、最も多いがんです。
精巣腫瘍は、基本的に痛みや発熱はありません。もし痛みがあれば「精巣炎」や「精巣上体炎」などの疑いが強いのですが、精巣腫瘍も約10%が痛みを伴うとされているので油断は禁物です。
では、どんな症状に注意すればいいのかといえば「無痛性の精巣腫大」です。片側のタマの一部が硬くゴツゴツしていたり、片側のタマ袋全体が腫れて大きくなったりする症状です。無痛性の精巣腫大を主症状とする病気には、「陰嚢(いんのう)水腫」という病気もありますが、その場合にはタマ袋を触るとブヨブヨと軟らかいところに違いがあります。
■転移がなければ95%以上が完治
いずれにしても普段からタマを触ったり、タマ袋の大きさを観察していないと、気づきにくいものです。また、精巣腫瘍は若い世代に発症するので、進行が速いという特徴があります。そのため転移した症状で発見されることも少なくありません。たとえば、腹部リンパ節に転移すれば、腹部のしこり、腹痛、腰痛など。肺に転移すれば、息切れ、せき、血タンなどの症状が表れます。
治療は、まず手術で腫瘍のある片側の精巣を摘出します。転移がなく、がんが精巣だけにとどまっていれば95%以上は完治が可能です。片側の精巣を取っても、もう片側の精巣が残るので精子を作る能力は変わりません。
転移している場合でも、抗がん剤治療や放射線治療を行うことで、かなり治癒が可能です。IJCC分類で「予後良好」の人は95%が、「予後中程度」の人は80%が、「予後不良」の人でも50%が治癒することが分かっています。
ただし、妊娠を望む人に抗がん剤治療や放射線治療を行う場合には、精子を作る能力が低下する可能性があるので、事前に精子の「凍結保存」が勧められています。