Dr.中川 がんサバイバーの知恵

人気ロボット手術「ダヴィンチ」より放射線を選ぶべき基準

漫才師のトミーズ雅さん
漫才師のトミーズ雅さん(C)日刊ゲンダイ

 漫才師のトミーズ雅さん(60)が、早期の大腸がんで手術を受けていたと報じられました。今月17日に手術を終え、翌日からは歩行リハビリをしているといいます。早期発見を「奇跡」と話しているようですが、経過が良好なのは、がんサバイバーの仲間としても何よりです。

 報道によれば、患部を含めて大腸を55センチにわたって切除。肛門につなげたといいます。読者の皆さんは、「そんなに大きく切除して、翌日からリハビリできるの?」と思われるかもしれません。ポイントは2つです。

 まず腫瘍ができた場所が、肛門の入り口付近だったこと。大腸は、小腸を囲むように結腸があり、結腸の出口から肛門につながる部分を直腸といいます。医学的には、雅さんの大腸がんは、直腸がんです。その直腸がんは、2018年4月からダヴィンチというロボット手術が保険適用になりました。それを利用できたのが2つ目です。

 ダヴィンチは00年に米国で使われるようになって、日本では12年に前立腺がんが保険適用になりました。16年に腎臓がん、18年には直腸がんのほか肺がん、胃がん、膀胱がん、子宮体がんなどにも広がっています。

 ダヴィンチには、内視鏡カメラと3本のアームがついていて、腹部などの小さな穴からこれらを挿入。医師は手術台から数メートル離れたところから操作し、メスや鉗子、ハサミなどの手術器具をアームに付け替えながら手術します。ロボットが自ら動いて手術するのではありません。

 主なメリットは3つ。①傷が小さく、出血量が抑えられ、術後の回復が早い②アームなどの精度の高さ、手振れ排除などにより、正確な切開や縫合が可能③さまざまな機能の温存です。

 直腸には、排尿や性機能などを担う重要な神経が密接しています。これらが損傷されると、日常生活への影響は少なくありませんが、ダヴィンチは温存できる可能性が高いのです。

■1台2億円超の高コストが壁に

 ただ、その導入費用は1台2億円以上。それでも診療報酬は従来の手術と変わりません。病院によっては、本来の適応範囲を超えて、ダヴィンチ手術の症例数を稼ごうとすることもありえるでしょう。

 たとえば、前立腺がんは、メスで切らずとも、放射線で根治でき、機能温存も可能。最新の定位放射線なら1回90秒ほどを5日かけて5回照射で完了。治療は通院で、医療費は3割負担なら20万円ほど。一方、手術は3割負担で約45万円。手術は経過が良好でも1週間程度は入院です。

 そんな背景があると、患者の利益より病院の利益が優先されないとも限りません。大腸がん、胃がん、血液系のがんなどは放射線で治療しませんが、放射線での治療が可能ながんは、放射線とてんびんにかけることが大切。今年4月からは食道がんと膵臓がんもダヴィンチの適用に。この2つにも、その考え方が大事でしょう。

中川恵一

中川恵一

1960年生まれ。東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授。すべてのがんの診断と治療に精通するエキスパート。がん対策推進協議会委員も務めるほか、子供向けのがん教育にも力を入れる。「がんのひみつ」「切らずに治すがん治療」など著書多数。

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