第2波に備えよ 新型コロナを徹底検証

<3>「抗体検査」が陽性でも、だから安心…というわけではない

新型コロナウイルス感染した患者の血液にできた抗体を調べる大学病院の関係者(ドイツ・エアランゲン市)/
新型コロナウイルス感染した患者の血液にできた抗体を調べる大学病院の関係者(ドイツ・エアランゲン市)/(C)ロイター

 新型コロナウイルス感染症(COVID―19)の本当の顔を明らかにするためには、「抗体検査」が重要だといわれている。生体の免疫反応によって作られる抗体を検出する検査で、「これまでに新型コロナウイルスに感染したことがあるかどうか」がわかる。

 抗体ができるまでには時間がかかるため、PCR検査のような「急性期の診断」には適さない。しかし、無症状感染者も含めた本当の感染者数が把握できることから、日本でも厚労省が東京、大阪、宮城で大規模抗体検査を実施する。

 アメリカ国立衛生研究所(NIH)でウイルス学・ワクチン学の研究に携わり、新著に「感染を恐れない暮らし方」がある本間真二郎氏(七合診療所所長)は言う。

「抗体検査には多くのメリットがあります。不顕性感染を含めた感染者数がより正確にわかるため、感染する割合、発病する割合、重症化する割合、死亡する割合などが正確に計算でき、病態の解明が大きく前進するのです」

 抗体とは、侵入した病原体から生体を防御するために働く「免疫グロブリン」(Ig)というタンパク質で、特定の病原体だけに反応して排除する。「獲得免疫」と呼ばれる生体のシステムによって、病原体にさらされることで後天的に作られる。いくつか種類があり、感染して最初に作られるのが作用が限定的なIgMで、その後にIgGが産生される。IgGは再び同じウイルスが侵入した際はすぐに攻撃して強力に排除する。この状態になれば「免疫が確立した」ということになり、同じウイルスには感染しづらくなる。ただし、今回の新型コロナウイルスの抗体については、まだわかっていない点があって課題は多い。

■抗体量が中途半端だと重症化を助長する可能性

 まず、抗体検査で使われる検査キットの精度に問題があると指摘されている。東京大学先端科学技術研究センターは、イムノクロマト法の簡易検査キットで陽性だった人の約90%が精密検査では陰性だったと発表。キットで陰性の人は精密検査でも陰性だったが、ほとんどが偽陽性となると正確なデータは取れない。また、実際は陰性なのに「陽性=感染歴がある=抗体ができている」と思い込んで安心してしまう人が出てくる点も懸念されている。そもそも、本当に陽性だったとしても、現時点では「抗体=免疫ができたから安全」とは言えない。

「新型コロナウイルスは抗体ができたとしても、それで感染を防げるのか、人にうつすのを防げるのかどうかはっきりしていません。また、どんな種類の抗体がどれくらいの量があれば効果があるのか、効果があったとしても一度できた免疫の効果がどれくらい持続するのかもわかっていないのです。新型コロナウイルスと近縁のSARSでは、生きたウイルスに感染した場合、抗体は2年もつといわれているので同程度だろうと予測されています。しかし、再感染や再燃するという報告もあり、確実ではありません」(本間氏)

 また、実験レベルでは、抗体の量質が十分ではなく中途半端だと、むしろ重症化を助長するという報告もある。

「軽症者に比べて重症者のほうが体内の抗体価が高いという報告が多く、抗体は回復には関与していないのではという見方があります。免疫には『自然免疫』と『獲得免疫』があり、獲得免疫はさらに『液性免疫』と『細胞免疫』に分かれ、抗体は液性免疫になります。新型コロナウイルスの場合、抗体はウイルス感染を阻止する中和作用はあるが、回復や症状の悪化は細胞免疫が起こしているのではないかと考えられます」(本間氏)

 現時点では、新型コロナウイルスの抗体検査でわかるのはあくまでも「感染したことがあるかどうか」だけで、抗体があっても安全とはいえない。勘違いは禁物だ。

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