第2波に備えよ 新型コロナを徹底検証

<9>日本人は相対的に安全の文化を持っている

写真はイメージ
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 新型コロナウイルスが世界を席巻するなか、先進国のなかで日本の感染者数の少なさが目立つ。なぜか。「感染症 増補版」(中公新書)の著者で、国立感染症研究所名誉所員でもある、井上栄・大妻女子大学名誉教授に聞いた。

 人・物・情報が国境を越えて激しく動くグローバル時代、衛生環境の良い文明国でも広がったのが今回の新型コロナウイルス感染症だった。

「他の動物になく人間だけにある特質は、言葉と手を使うことです。快適な居住空間が整備された文明国でも新型コロナが広がったのは、この言葉と手が感染ルートになったからです。つまりこのウイルスは文明社会で広がるのにピッタリのものだった、と私は考えています。これに対抗するには、従来の生活様式や行動様式を一度見直すことも重要です。その意味で今回の新型コロナウイルス感染症は、人類の将来を占う、重要な分岐点となる感染症だと言えるでしょう」

 これまでの危険な感染症は、感染した人のうちの多数が症状を出すものだった。新型インフルエンザや重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)などの場合、感染するとすぐに症状が表れる。そのため、早期に対処することができ、封じ込めに成功し、局地流行だけに抑えられてきた。

 ところが、今回は自覚症状に乏しい感染者が多く、そのことが感染拡大につながったといわれる。

 にもかかわらず、日本人に感染者が少ないのは、相対的にウイルスに感染しにくい安全な文化があるからではないか。実際、2003年にSARSが流行したときも世界中で8000人以上の患者が報告されたが日本人はゼロだった。それを生活や行動の違いだと厳密に証明はできないが、その理由を考えるうえで、行動様式の違いを考えることは重要だろう。

「欧米人はパンを手づかみで食し、土足で部屋を動き回るために靴底についたウイルスが部屋で乾燥してホコリとなって舞い上がり、それを吸い込んで感染する可能性があります。しかも、挨拶で握手やハグをして接触感染を起こしやすい。一方、日本人は握手の代わりにお辞儀をし、家では靴を脱ぐ。常に手を洗い、お風呂に入る。食事に箸を使い、おにぎりやお寿司以外で手づかみで食べることはありません」

 もうひとつ、人間に特徴的な感染ルートは性交だ。人間は服を着るので、動物よりも体同士の接触は少ないが、直接の体の接触でうつるのが性感染症だ。

「しかし、日本人のコンドーム使用率は世界1位。世界一清潔なセックスをしている民族なのです」

■日本語の発音も影響か?

 しかも、日本人の使う言語は、ウイルスをうつしにくい性質があるという。

「英語や中国語には、破裂音のあとに母音が来ると、息が激しく吐き出される有気音があります。このとき、息と共にウイルスを含む飛沫が飛び出す可能性があります。ところが日本語にはほとんど有気音がない。そのため英語や中国語に比べ飛沫が少ないと考えられているのです」

 井上名誉教授はしゃべる時の風圧を測定。日本語は風圧が低く飛沫が遠くに飛びにくいと推測しており、人との間隔は欧米が課す「2メートル」以下でもよいという。人種が混在し、自己主張しなければ存在感を示せない外国人と違って、行動で人を判断する日本人は、そもそも言葉数が少ない。これも日本人に感染者が少ない理由だろう。

 日本人の行動は外国人に比べておと(音)なし過ぎるといわれてきたが、別の視点からも考えると、それが幸いしたとも言える。外出後や食事前に手を洗い、毎日お風呂に入る。日本人なら当たり前の生活や行動様式を身に付けておけば、ある程度ウイルスとの共存は可能なのだ。

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