進化する糖尿病治療法

起床時の頭痛とだるさ、日中の眠気は「小顔」に原因あり

やせ型で小顔でもSASのリスクが高くなる
やせ型で小顔でもSASのリスクが高くなる(C)日刊ゲンダイ

 起床時の頭痛が長年の悩みだった50代半ばの女性。「一度病院で調べてみたら」と知人に勧められ、頭痛外来を掲げている病院を受診しました。

 日本人は3人に1人が慢性頭痛持ち、といわれています。慢性頭痛で最も多いのは緊張型頭痛で、その次に片頭痛があり、さらに群発頭痛があります。緊張型頭痛は、頭全体が重く圧迫されるような痛みが特徴。片頭痛はズキンズキンという拍動性の痛みが頭の片側に起こります。群発頭痛は、片方の目の奥にえぐるような激痛が走り、1日に数回、毎日のように症状が出現し、1~2カ月続きます。

 冒頭の50代の女性の場合、起床時の頭痛ということから、緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛、いずれも当てはまりません。血液検査、脳のMRIを受けたところ、血圧、血糖値は薬を飲むか飲まないかレベルのギリギリの高さ。しかし、脳には異常は見当たりませんでした。

 女性は、別の病院の脳神経外科も受診。やはり脳のMRIは異常なし。頭痛には、くも膜下出血、脳出血、脳腫瘍など命に関わる病気の可能性も考えられますが、いずれも否定されました。

 原因が分からず心配になった女性は、医者の夫を持つ会社の同僚に相談。「起床時の頭痛」「血圧、血糖値が高い」という情報を伝えると、同僚を通して「起床時の頭痛があるのなら、もしかしたら睡眠時無呼吸症候群(SAS)ではないか。日中の眠気、朝起きた時の体のだるさや疲労感などはないか」と聞かれました。

 いずれも、当てはまることばかりで、睡眠の専門クリニックを受診。問診、簡易検査、精密検査を経て、SASの中等症と診断され、気道に空気を送り続けて、寝ている間の無呼吸を防ぐCPAP療法を始めたところ、起床時の頭痛や体のだるさ、疲労感、日中の眠気が解消されました。

■血糖値の上昇にも関係していた

 SASは、肥満の人に多い病気という印象が強い。しかし、特にアジア人では、痩せている人にも多くみられます。首が短くて太かったり、下顎が小さいと気道が狭く閉塞されやすくなるため、体重と関係なくSASのリスクが高くなるのです。

 起床時の頭痛に悩んでいた女性は痩せ形で、小顔。診察した医師もSASに思い至らなかったのでしょう。また、SASを疑う大きな特徴のひとつが寝ている時のいびきなのですが、この女性はひとり暮らしで、「いびきがひどい」と指摘する人がいなかった。さらに女性は「頭痛=脳の異常」と考えており、日中の眠気や起床時の体のだるさと頭痛を切り離して考えていたので、より診察が難しくなったのです。

 SASと2型糖尿病の関連性のメカニズムは詳しくは解明されていません。しかし、SASによる間欠的低酸素血症(低酸素状態と正常な酸素状態が繰り返される)と、無呼吸状態から呼吸が再開するときの脳の覚醒反応が繰り返されることで、交感神経の亢進やインスリン抵抗性の悪化につながって、糖尿病の発症リスクが高くなると考えられています。

 SASの重症度が上がるほど糖尿病を合併する割合は高く、女性が診断を受けた「中等症(無呼吸、低呼吸指数15以上)」では14・7%が糖尿病を合併しており、年齢、性別、ウエスト回りで補正しても、SASを合併していると糖尿病の発症リスクが1・62倍という報告があります。

 前回のこの欄でもご紹介したように、睡眠と糖尿病・高血圧などの生活習慣病は相互関係にあります。日中の眠気が強い場合、肥満でなくてもSASの可能性も考えた方がいいでしょう。いびきを録音するアプリもあるので、ひとり暮らしなら、それを利用してまずチェックするのも手ですね。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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