進化する糖尿病治療法

「健康のために」取り始めたら逆に体を害してしまった…

「緑茶は体にいいから」と飲みすぎないように
「緑茶は体にいいから」と飲みすぎないように

 患者さんから「○○○が糖尿病にいいそうですね」と言われることが、時々あります。

 たとえば、緑茶です。生活習慣とがんなどがどう関連しているかを調べるために行われた大規模コホート研究で、緑茶を1日6杯以上飲む人では、週1杯以下とほとんど飲まない人と比べて、糖尿病の発症率が33%少なかったとの結果が出ています。

 緑茶に関しては、日本を代表する疫学調査「久山町研究」でも、「緑茶に含まれるテアニンという成分の代謝物エチルアミンの血清濃度が高い人は、2型糖尿病発症リスクが低い」との結果が出ています。

 これを踏まえたさらなる研究では、血清エチルアミンの濃度が上昇するに従い2型糖尿病の発症リスクは下がり、最大で21%低下したとの結果でした。

 緑茶は糖尿病以外にも、心臓病や脳卒中などのリスク低下、認知症予防などの研究結果が発表されています。ほかにも「緑茶のカテキンが血圧、体脂肪、脂質を調整し、血糖値を改善」「緑茶のカフェインが血管を修復」といった可能性も挙げられています。

 いずれも研究で報告されていますので、「緑茶が糖尿病や心臓病、認知症にいいとは言い過ぎで、眉唾もの。信じない方がいい」とは、私も思っていません。ただ、「○○○が糖尿病にいいと聞いたので、それを積極的に取り始めました」ということには、必ずしも賛成できません。

■患者の血糖悪化はたいてい…

 緑茶を例に出したので、それについてお話しすると、緑茶は糖分や塩分が入っている飲み物ではありませんから、普段から好きでよく飲んでいるなら、問題ないでしょう。そういった場合の飲み方は、常識の範囲内の飲み方です。また、砂糖入り缶コーヒーや缶紅茶、ジュースなどを日常的に飲んでいた人が、それらの代わりに緑茶を飲むようにしたというのなら、ぜひその習慣を続けてほしいと思います。

 ところが、「糖尿病にいいから」と緑茶を飲み始める人は、過剰な飲み方に陥りがちです。「夜中、なかなか眠れなくなった」「トイレに行く回数が増えた」「胃の調子が悪い」といった人の話をよくよく聞くと、1日7杯も8杯も緑茶を飲み、しかも寝る前にも緑茶。緑茶は水分ですし、緑茶に含まれるカフェインには利尿作用や覚醒作用、胃液分泌促進作用などがありますから、多量に飲んだり寝る前に飲めば、睡眠やトイレの回数、胃腸に影響を与えます。また場合によってはかえって心臓に負担がかかってしまう時もあります。

「緑茶を飲むと、つい欲しくなって」と緑茶と一緒に和菓子を食べている人も……。糖分取り過ぎにつながりかねず、糖尿病がかえって悪化するリスクがあります。

「患者さんの血糖コントロールが悪くなったと思ったら、たいてい原因はヨーグルト」という話も聞いたことがあります。ヨーグルトは「体にいい食品」の代表的なものですよね。そのヨーグルトを健康のために取り始めたはいいものの、ジャムや蜂蜜をかけて食べるためカロリー摂取量が増え、血糖コントロールがうまくいかなくなった……。私の患者さんにもいるかとは思います。

 病気予防に役立つことが研究で明らかになっている食品はたくさんあります。それらの有効成分に、もし薬と同等の作用があるなら、抽出し、薬とするための研究が行われます。実際、青背の魚に豊富な必須脂肪酸EPAは、高脂血症を予防し、動脈硬化・心筋梗塞・脳梗塞対策につながることが分かり、世界中の医学者に研究され続けてきた結果、現在はサプリメントとしてだけでなく、高脂血症の薬としても登場しています。

「○○○が病気予防にいい」という情報は、頭の片隅に軽くとどめておく程度で十分ですよ。

坂本昌也

坂本昌也

専門は糖尿病治療と心血管内分泌学。1970年、東京都港区生まれ。東京慈恵会医科大学卒。東京大学、千葉大学で心臓の研究を経て、現在では糖尿病患者の予防医学の観点から臨床・基礎研究を続けている。日本糖尿病学会、日本高血圧学会、日本内分泌学会の専門医・指導医・評議員を務める。

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