高齢化がますます進んでいる日本では、「心房細動」の患者さんが増えています。心臓が細かく不規則に収縮を繰り返すことで動悸や息切れの症状が表れる病気です。血流が悪くなるため血栓ができやすくなり、心原性脳梗塞や心不全につながって死を招くリスクもあります。心房細動は認知症になりやすくなることもわかっています。
心臓の病気である心房細動と、脳の病気である認知症は、関係ないように思われますが、実は深い関わりがあるのです。
心房細動がある人は、認知症になるリスクが1・4倍高くなり、アルツハイマー型認知症や血管性認知症などすべての認知症のリスク因子であるという報告があります。また反対に、心房細動に対して積極的な治療を行うと、認知症の発症リスクが低減するという研究も数多くあります。
心房細動の治療は大きく2つあり、まずは心房細動や脈拍数を抑える抗不整脈薬や、脳梗塞を予防するために血栓をできにくくする抗凝固剤による薬物療法を行うのが一般的です。投薬であまり効果がみられない場合は、「カテーテルアブレーション」(カテーテル焼灼術)という治療が検討されます。太ももや肘からカテーテルを挿入し、不整脈の原因となっている部分に高周波の電気を流して焼く方法です。
10月に発表された韓国の研究では、新規に心房細動だと診断された患者83万4735人のうち、カテーテルアブレーションを受けた患者は9119人中164人、薬物療法を受けた患者は1万7978人中308人が認知症を発症。カテーテルアブレーションを行ったグループは、薬物療法を行ったグループに比べて、認知症の発症リスクが27%低いという結果でした。
もっとも、欧米のいくつかの研究では、抗凝固剤による治療で認知症の発症リスクが低下することが示されています。いずれにせよ、心房細動がある人は、何らかの介入治療をすることで認知症の発症リスクを低減できる可能性があるといえるでしょう。
■ラクナ脳梗塞が影響する可能性
なぜ、心房細動の治療が認知症を減らすのかについて詳しいことはわかっていませんが、要因はいくつか考えられます。まず、治療によって血栓の産生が抑制され、脳梗塞を防ぐことが影響していると思われます。脳の太い血管が詰まる脳梗塞だけでなく、脳の微小血管が詰まる無症状のラクナ脳梗塞を防ぐことで、神経細胞の障害や脳血流の低下を抑制し、血管性認知症の発症を減らすのです。
また、患者さんに「薬をきちんと服用する」という習慣が定着することも関係しているかもしれません。抗凝固剤や抗不整脈薬は高価なタイプもあるうえ、抗凝固剤では出血しやすくなったり、抗不整脈薬では別の不整脈を引き起こす催不整脈作用といった副作用があるため、患者さんは「適切に薬を飲む」という意識が強くなります。
すると、ほかの薬に対してもそうした意識が働くため、併用しているケースが多い降圧剤やスタチンなどのコレステロール降下薬もきちんと飲むようになります。まだ、たしかなエビデンスは確立していませんが、降圧剤やコレステロール降下薬も動脈硬化性の認知症の発症リスクを下げる可能性が指摘されています。そういった薬をしっかり適切に服用する習慣が認知症を防ぐことにつながるといえるでしょう。
脳の血管障害が原因で起こる脳血管性認知症も、脳にアミロイドβという物質が蓄積して起こるといわれるアルツハイマー型認知症も、発症には高血圧、高血糖、高コレステロール、喫煙といった生活習慣が大きく関わっています。そして、そうした生活習慣は心房細動のリスク因子でもあります。
心房細動がある人は適切なタイミングできちんと治療を始める。心房細動がない人も生活習慣を改善する。これが、認知症の予防につながります。