最期は自宅で迎えたい 知っておきたいこと

入院先の主治医が反対して在宅医療に切り替えられない…

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写真はイメージ(C)日刊ゲンダイ

 在宅医療に切り替えたいけれど、入院先の主治医が反対しているという話を聞くことがあります。どうしてそういうことが起こるのでしょうか?

「在宅医療に切り替えたい」のはどんな時かというと、病状が重篤で、患者さんもご家族も最期の時が迫っているのをうすうす感じているといった場合です。あるいはそこまで深刻でなくても、「これ以上良くならないなら、住み慣れた我が家で、家族とともにゆっくりと過ごしたい」という時ではないでしょうか。また、「入院したものの自宅で過ごしたくなる」「退院後の通院が大変になる」というケースもあります。

 一方で医師側からすると、「病状が安定していない。まだできる治療があるかもしれない。そんな不安定な状態で、患者さんを次の医師に引き渡してはいけない」といった考えがあります。それが冒頭の「主治医が反対」とつながっているのです。

 しかしそれは、患者さんの残された時間が短いだけに、数日の遅れが、ご家族に大きな後悔を抱かせる結果を招くことになるかもしれないのです。「せめて意識のはっきりしている間に、自宅の居心地のよさを味わわせてあげたかった……」とならないためにも、まずは医師にしっかりと在宅医療を希望している旨を伝えることが大切です。

 できれば病状が悪化する前から、折に触れ医師にそれとなく伝えておくといいでしょう。その場合も医師から在宅医療に移行した場合のリスクなどを説明されたりするかもしれません。しかし患者さんとご家族が退院し、本当に在宅医療を望んでいるなら、最終的には入院先の主治医もそれを尊重し、退院を無理やり引き留めるようなことはしないでしょう。

 どの医療機関で在宅医療を受けるかは、医師や看護師が病院内の看護相談室や退院支援の窓口につないでくれるので、「見つからないかも」といった心配は無用です。また65歳以上であれば、患者さんが住む地域の地域包括支援センターに相談する方法もあります。

 こうして退院と在宅医療が決まれば、紹介状と呼ばれていた「診療情報提供書」という書類による患者の病気に関する情報も、ちゃんと在宅医師側とやりとりしてもらえます。

 ちなみに、退院当日の移動は自身や家族だけで難しければ、介護タクシーを利用するという方法もあります。介護ベッドや手すりなど生活に必要なものは、医師、看護師、理学療法士などの院内スタッフと、在宅医療を行う医師、訪問看護、ケアマネジャー、保健師などが集まり、退院後の在宅医療について話し合う退院時カンファレンスであらかじめ打ち合わせをし、段取りをしていきます。

 しかし、その日に突然、自宅に帰ることが決まる場合もあります。そんな時は、ご自宅にあるもので臨機応変にできることから対応します。

「主治医の反対を押し切って退院させたはいいけど、すぐに切れ目なく続きの医療を在宅で受けられるのだろうか」と心配な方もいるでしょう。どうぞ安心して在宅医療を始めてください。

下山祐人

下山祐人

2004年、東京医大医学部卒業。17年に在宅医療をメインとするクリニック「あけぼの診療所」開業。新宿を拠点に16キロ圏内を中心に訪問診療を行う。

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